天秤の右腕

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 いったいどうしてそう言うことになったのか。それがわからないままレイはギナの元へ向かっていた。
「ギナ様! 伺いたいことがあります」
 そう言いながらリビングへと踏み込む。
「レイ……せめてノックぐらいはしなさい」
 ため息交じりにそう言ってきたのはラウだ。
「すみません。ですが、至急確認したいことがありましたので」
 そんな彼に頭を下げる。だが、すぐに顔を上げるとギナを見つめた。
「どうしてあの男にキラさんへの面会の許可を出したのですか?」
 しかもプレゼントまで用意して訪れた、とレイは告げる。
「と言うことは完成したのか。思ったよりも早かったの」
 しかし、ギナが返してきた言葉は予想外のものだった。
「ギナ様?」
「あれへの課題よ。それを完成させることができればキラに会わせてやろうとな」
 キラ自身、外への興味も出てきたようだし……と彼は続ける。
「ですが!」
 彼がキラを傷つけるとは思わなかったのか。レイはそう続けようとする。
「私とギルも賛成したよ?」
 そこにラウがそう口を挟んできた。
「ラウ!」
「私たちがどうこう言っても、すでにキラとアスランは再会している。ならば、アスランの方に釘を刺して会わせた方が無難だろうね」
 でなければ、キラはここから出て行ったかもしれない。ラウはそう続ける。
「それに、我らにも益がないわけではないぞ」
 さらにギナがこう言う。
「アスランの手土産はキラの護衛ができるマイクロユニットよ。これがあれば前回のようなことにはならぬ」
 自分たちがいないときにキラが攫われたりすることはなくなる、とギナは言う。
「我がそれを改良する故にな」
「……なら、大丈夫ですね」
 ギナがチェックしてくれるなら、アスランがよからぬ機能をつけたとしても発見できるだろう。レイはそう言ってうなずく。
「やれやれ。随分と嫌われたものよ」
 アスランも、とギナがそうつぶやいた。

「トリィ」
 その鳴き声とともに二羽の鳥形マイクロユニットがキラの両肩に止まる。
「……これ……」
「かわいいだろう? それは二羽でワンセットなんだ」
 アスランがほほえみながらこう言って来た。
「でも、いいの? ラクスは一つなのに……」
 婚約者を優先しないと、とキラは焦る。
「一羽じゃ必要な機能を盛り込めなかったんだよ」
 そんなキラにアスランは静かにこう言ってきた。
「そうですわ。ですから気にしなくてかまいませんの」
 ラクスも微笑みながらうなずいている。
「それに、わたくしのにはいろいろと機能をつけてもらっていますもの」
 それに比べればかわいいものだ、とそう続けた。
「……機能?」
 そういえば、とキラは肩にいるそれらへと視線を向ける。
「これにはどんな機能が付いているの?」
 とんでもないものは付いていないよね、と言外に問いかけた。
「緑の方には通報装置、ピンクの方には相手を足止めする装置だよ」
 二羽は連動しているから、万が一どちらかがはぐれでもすぐに探してたどり着くようになっている。アスランはそう説明してくる。
「……それって……」
 過保護? と聞こうとした。
「ほう。さすがよの」
 だが、それよりも早くギナの言葉が響いてくる。
「我が依頼したとおりよの」
「ギナ様?」
 いったいどこから聞いていたのか。そう思いながら視線を移動する。
「よかったの、キラ。おぬしは心配してもらえているようだぞ」
 それはわかっている。しかし、だ。
「ここまでしなくても、別によかったんじゃ……」
「我らが安心するためよ。むしろもっといろいろと機能を加えたいところだがな」
「それだけのスペースはありません。ただ、スペックをあげることは可能でしょう」
 オーブ製の部品が手に入れば、とアスランが言い返す。
「それならば我が用意しよう」
「なら大丈夫ですね」
「……あの、ギナ様? それにアスランも……」
 いったいどれだけの最終兵器を作ろうとしているのか。それを教えてほしいと本気で思ったキラだった。

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最遊釈厄伝