天秤の右腕

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「そちらはどうなっておる?」
 ミナはそう言いながらまっすぐにモニターを見つめる。
『キラはとりあえず立ち直っているように見える。ただ、それは表面上は、とつくがな』
 それにギナがこう言い返してきた。
『本質はどうかわからぬ』
 さらに付け加えられた言葉に、ミナは深いため息をつく。
「仕方があるまい。事件が立て続けに起きすぎた」
 さらにこう言葉を重ねる。
「それでもお前が行かぬよりはマシであったろうよ」
 キラは落ち着いたのであろう、と続けた。
『そう見えるの』
「ならよいではないか。少なくとも行かねばまだあの調子だったかもしれぬぞ?」
 そう告げればとりあえずギナは納得したらしい。
『姉上の言う通りかもしれぬ』
 こう言って言葉を収める。
「後しばらく、そちらにおればよい」
 笑みを浮かべつつミナは言葉を綴った。
「さすれば、キラの気持ちももう少し好転するだろう。
 その間にこちらはバカを排除するだけだ、と心の中で付け加える。もっとも、双子のギナにはそれすらもわかってしまうのか。
『その間にバカをどうにかするつもりか?』
 こう問いかけられる。
『姉上達だけ楽しんで』
 恨めしそうに告げるが、代わりにキラを愛でる機会を与えているのだ。妥協してもらうしかない。
「少しぐらいはかまうまい?」
 そう言い返す。
『我もあれらに意趣返しをしたいのだがな』
「あきらめよ。その分、キラをかまえばよかろう」
 ギナの言葉にそう返せば、彼は小さくうなずく。
『仕方があるまい。あれに渡すマイクロユニットを考えよう』
 どうやら最初からそのつもりだったらしい。自分までも欺くとはあきれたやつだな、と心の中でつぶやく。
「好きにすればよかろう」
 笑みを浮かべながらミナはそう言い返した。

 キラの毎日はそう変化はない。それは自分自身のことを考えてくれていると言うことだ。
 しかし、とキラはため息をつく。
「なんか、最近、息苦しいんだよね」
 贅沢かもしれないけど、と彼は続ける。それでも息苦しいことには変わりがない。
「贅沢かもしれないけど」
 皆によくしてもらっているのはわかっている。
 ギナだって、忙しいのにこちらに来てくれているし、と付け加えた。だが、何かが足りないような気がする。
 問題なのは、それが何かわからないことかもしれない。
「本当にどうしたらいいのかな?」
 わからないことがわからないなら誰かに聞けばいいのではないか。そうも思うが内容がないようなだけに聞く相手を選ぶ。
 少なくとも何時もいる人達には聞けないだろうし、とため息をつく。
「やっぱりラクスかなぁ」
 自分がこういうことを相談できる人間は、と口にする。それ以外ではディアッカぐらいだろうか。だが、彼は仕事で忙しいだろうし、と悩む。
 やはりラクスが無難かもしれない。
 ある意味、人間関係の狭さを感じさせる人選ではある。だが、ここから自由に出歩けない以上、仕方がないのではないか。
 そんなことを考えつつラクスに連絡を入れる。
『あら、キラ……どうかなさいまして?』
 コール二つでラクスが通話に出る。その服装はすでに部屋着になっていた。
「今、いいかな?」
 それにキラはこう問いかける。
『もちろんですわ』
 ふわりと微笑むとラクスはうなずいた。
「……ちょっと、相談があるんだ」
『あらなんでしょう? わたくしでわかることならよいのですが』
 ラクスはそう言いながら首をかしげる。その様子は本当に可愛らしいと思う。
「何というか……少し、息苦しいんだ」
 ここは、とキラは付け加えた。
 自分がこういう体だとはわかっている。それでも、皆からあれこれとされるのはちょっとつらいかもしれない。そう続ける。
「本当はこういうことを言ってはいけないのかもしれないけど」
『そう言うわけではありませんわ』
 ただ、とラクスは続ける。
『キラがようやく周囲を見回せるようになったのでしょう』
「僕が?」
『えぇ、そうですわ』
 ラクスはそう言ってしっかりとうなずく。
『ですから、ご自分の現状に不満が出てこられたのでしょう』
 彼女はそう続ける。
「そうなのかな?」
『そうですわ。ですから、皆様にそうお伝えしてみてはいかがでしょうか』
 ラクスはそう提案して来た。
「いやがられないかな?」
 それが心配だ、とキラは聞き返す。
『大丈夫ですわ』
 ラクスはそう言いながらしっかりとうなずいて見せた。

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最遊釈厄伝