天秤の右腕

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 近くに来たから、とラクスが顔を出してくれた。
 そのことは純粋にうれしい。
 しかし、キラの意識はそれよりも彼女のそばで飛び跳ねているマイクロユニットの方に向けられている。
「……面白い作りだね」
 ぽよんぽよんと跳ね回っているそれから視線をそらせないままキラはそう告げた。
「ちょっと手に取ってみてもいいかな?」
「もちろんですわ」
 ラクスはそう言うとそれを手元に呼び寄せる。そのまま手渡してくれるかと思えば、何か操作をしたのか。それの体のラインから大きく開く。
「とりあえず上のモニターでシステム関係は確認できるそうですの。わたくしにはちんぷんかんぷんなのですが」
 そちら方面には全く適性がないので、と彼女は続けた。
「そう言う方は少なくないですよ」
 キラは苦笑とともにそう言い返す。そして改めてそれを受け取った。
「すごい……こんな風に的確な組み合わせが作れるなんて……」
 ギナが見たら喜ぶのではないか。そう付け加えながら、キラは改めてそのマイクロユニットへと視線を落とす。その組み合わせ方に見覚えがあったのだ。
「……アスランが作ったマイクロユニットに似てる」
 幼年学校時代に見た、とキラは続ける。
「わたくしの婚約者の名は《アスラン・ザラ》ですわ」
 それに続けて何かを思い出そうとした瞬間、ラクスが爆弾を投下してくれた。
「アスランが?」
「えぇ。わたくしと彼の遺伝子の組み合わせであれば次世代が生まれる可能性が高いと」
 他にも政治的な理由があるが、と彼女は続ける。
「政治的な理由?」
「わたくしの父は穏健派ですの。逆にアスランのお父様は強硬派ですわ。その二つが分断したままではまずいと考えている方が多いと言うことです」
 父の立場上仕方がないことだ、とラクスは笑う。
「……そうなんだ」
 それでいいのだろうか。キラは心の中でつぶやく。
「ですから、子供を産むこと以外では自由にさせていただこうかと。そう告げたら、アスランがあきれたような表情でこの子をくれました」
 せめて周囲には気をつけるようにという言葉とともに、とラクスは告げた。それにキラは改めてハロの構造をチェックする。
「うわぁ……」
 何、この最終兵器……と思わずつぶやいてしまう。
「緊急信号発信装置はともかく、電気ショックと音波ショックって……何を目指しているんだろう」
「……ふむ。それは面白いな」
 背後からギナの声がする。それに反射的に顔を上げれば、彼がキラの肩越しにハロをのぞき込んでいるのがわかった。
「しかし、少々大きいかもしれぬ。緊急信号発信装置と電気ショックぐらいで他の機能をオミットすれば小さくなるか?」
 言葉とともにギナはキラの手からハロを取り上げようとする。
「ダメです、ギナ様。これはラクスのですよ」
 反射的にキラはそれを抱え込むようにしてギナから遠ざけた。
「残念だの」
 そう言いながらも彼の視線はそれから動かない。
「なら、キラのために作ってもらえばいいのではありませんか?」
 それにじれたのか。ラクスが小首をかしげながら言った。
「そうすれば、好きなだけ眺めていられますわ」
 本当に爆弾発言だ。そう思いながらキラは頭を抱える。
 しかし、ギナは乗り気だった。
「そうよの。この形もよいが、普通の動物形もよいの」
 勝手に注文をつけ始める。
「位置通知装置は必要だが、文字入力は必要ないか。そうすれば小さくなるであろう?」
「そうですわね。わたくしは必要でしたが、キラはそうとは言えませんもの」
 むしろ、キラはパソコンを自由に扱える。それならばそちらを中心にすることを考えた方がいいのではないか。ラクスはさらに言葉を重ねる。
「おぬしはよく見ておるの」
 確かにそうかもしれぬ、とギナは微笑む。
「そう言うことでいいですわよね、キラ様?」
「そういうことよなぁ」
 どうやら二人の間で話は決まったらしい。二人同時に視線を向けると問いかけてきた。
「……はい」
 それにこう言うしか道はない。
「さて……おぬしとはよい関係が望めそうだの」
「わたくしもそう思いますわ」
 目の前で微笑み合っている二人を見ながら、キラは小さながめ息をついた。

「と言うことになりましたわ」
 にこやかな表情でラクスはモニターへと微笑みかける。いや、正確にはその先にいるアスランにだが。
『そうか』
 そうつぶやくと、彼は安堵のため息をつく。
『ありがとう、ラクス』
 その表情のまま彼はこう言った。
「かまいませんわ」
 それにラクスもこう言い返す。
「わたくしはわたくしがなすべきことをしただけです」
 ただ、と彼女は続ける。
「お二人がうまくいっても、結婚だけはしていただきますわ」
『ラクス……』
「それはそれですから。ですが、形だけで結構です。あと、子供の一人も作っていただければ」
 それ以外は好きにしてくれていい。そう言って微笑む。
「わたくしは最良の場でお二人を見学させていただきましょう」
 そう付け加えるとラクスは通信を終わらせた。

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最遊釈厄伝