天秤の右腕

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  22  



 キラと再会をしたら、月にいた頃の話を沢山しよう。そうすれば自分が幸せだったことを思い出せるだろうから。
 しかし、そうすることでキラが苦しむかもしれない。
 だが、それ以外で彼と何を話せばいいのかわからないのだ。
 探せば見つかるのかもしれないことはわかっている。それでも無意識にそちらに話を持って行く可能性は否定できない。
「俺は……」
 自分の気持ちしか考えたことがなかったのか。そうつぶやく。
 誰にも指摘されなかったその事実が、今になってこんなに重くのしかかってくるとは、と考えた瞬間、思わずため息がこぼれ落ちる。
「俺は、こんなにも自分勝手な人間だったのか?」
 今気がついたというようにそう付け加えた。
「それとも、俺が気づかなかっただけなのか?」
 自分が気づいていなかっただけで、昔から自分勝手な人間だったのか、とそう続ける。だが、それを確認できる人間はキラしかいない。父は月にいた頃の自分を知らないから、と。
 せめて母が生きていてくれれば良かったのに。
 考えても仕方がないことだとわかっていても、そう思わずにいられない。
「ともかく、後始末だな」
 これだけ派手に行動したのだ。書かなければいけない書類も多いだろう。
 それを終わらせるまでが自分の役目だ。
 何よりも、頭を冷やして冷静になりたい。
 そうすれば何かいい方法が思い浮かぶかもしれないから。
 もちろん、その可能性は低いだろう。だが、それでも何か手がかりぐらいは見つかってほしいと思う。
「俺は……それでも、俺はお前と再び話すことをあきらめきれないんだ」
 そうつぶやく声は風に散らされた。

 さて、アスランはどう出るだろうか。
 キラの顔を見つめながらラウは心の中でそうつぶやく。
 これであきらめるようなら適当に放置する。だが、それでも『キラに会いたい』と言うのであれば何か方法を考えなければいけないだろう。
「もっとも、それ以前にキラの精神状態の方が落ち着かないうちは許可するつもりはないが」
 アスランにしても後始末を押しつけてきた以上、そんなことを言い出す余裕はないだろう。
「その間に彼らと話し合いをしておかなければ」
 二度と同じことが起きないように、と心の中だけで付け加える。
 もっとも、あの大馬鹿者達はそう簡単にあきらめてくれないだろう。十七年も経つというのに、未だにあの二人の遺産を探しているらしいのだ。
 そんなもの、とっくに消し去ったというのに、とため息をつく。
 残されているのはただ二つの宝物だけだ。
 それも時が過ぎれば失われるだろう。だからこそ美しいのだとラウは考えている。
 しかし、それを失うのは今ではない。
 何十年も後──自分たちが死んだ後でなければいけないのに、とラウは心の中ではき出す。
 それでもオーブにいるあれの力をそぐことができれば、少しは楽になるのではないか。
 いや、間違いなく楽になるだろう──彼らが。
「もっとも、その前にあちらがどのような被害を受けようが、私たちには関係のないことだな」
 間違いなく、とつぶやく。
「それよりもキラ達のアフターケアの方が重要だね」
 今回のことがどのくらい彼らの心に負担をかけたのか、それは本人達でなければわからない。最悪、心を病むものもいるだろう。
 その中にキラが含まれなければいい。
 祈るようにそう付け加えた。

 プラントでの惨劇については即座にギルバートからミナの元へ連絡が行った。ギナではなかったのは、その後の暴走を心配したからだと思われる。
「……ここまであれらがバカだったとは……」
 そんな彼女にしても怒りで我を忘れそうなのだ。ギナであればなおさらだろうと納得せざるを得ない。
「まずはウズミと養父殿に連絡せねば、な」
 何も知らせずに動けば後々おしかりが待っているだろう。それよりは最初に巻き込んでしまった方が動きやすい。そう判断をしたのだ。
 それに、とミナは付け加える。
 彼らにしてもあそこには鬱憤がたまっているのではないか。
 何よりも、自分ではわからない落としどころというものを彼らは理解しているはずだ。
 彼らの存在は忌々しいが、彼らの下で働いている人間の大多数には何の罪もないのだ。そんな人間の受け皿も用意しておかなければいけない。それは保護者達に任せるのがいろいろといいだろう。
「問題はあの二人か」
 自分の片割れとセイランに多大なる迷惑をかけられている娘。
 何よりもあの二人はキラが大好きなのだ。
 今回の事件を聞いて冷静でいられるはずがない。その二人の暴走をどうやって止めるか。それを考えるだけで頭痛がしてくる。
 だからといって、知らせなければそれはそれで厄介だ。
「あちらのことはラウ達がなんとかするだろうが……ギナも様子を見に行かせるか」
 養父に頼めば許可が得られるだろう。
「カガリ一人であれば十分に抑えきれるからの」
 あれは行動力はあるがその分詰めが甘い。それを逆手にとれば止めることは可能だ、と続ける。
 逆にギナは一度スイッチが入ると自分以上に厄介な存在だ。
 そんな彼のストッパーは双子の姉である自分ではなくキラである。だからプラントに行かせてしまえば大丈夫だろう。
 だが、とすぐに思い直す。
 あちらにはラウがいる。二人で結託されては余計に厄介なことになるかもしれない。それでも時間が稼げるだけいいのではないか、と考えることにミナはした。
「まぁ、あれには『キラのことを最優先に考えろ』と言っておけば多少の抑止力にはなるだろう」
 その間にこちらのことを終わらせてしまえばいい。ギナの不満は廃棄コロニーを破壊させることで解消させられるのではないか。あるいは、キラに甘えてもらうか、だ。
 それに関してもことが決まったらラウに連絡しておこう。
「となると、まずは本土へ連絡を入れねばな」
 それからギナ達に説明をするのがいいのではないか。ミナは心の中でそうつぶやく。同時に移動をするために床を蹴った。

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最遊釈厄伝