星々の輝きを君に
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何なのだろう。この気まずい――いや、気恥ずかしいと言うべきか――空気は。
「父さん、お茶は?」
それに、ハルマは少しだけ考え込むような表情を作る。
「別に、気にしなくてもいいわよ、キラ」
そんな彼の隣でカリダが微笑みを浮かべていた。
「この人は緊張しているだけだから」
さらに笑みを深めると、彼の手に自分のそれを重ねる。
「あなたが好きになって、カナード達が認めた相手ですもの。文句のつけようがない、とわかってはいても、父親としては複雑なのよ」
それが父親というものだから、妥協してね……とカリダが視線を向けてきた。
「……ムウ兄さんにも言われているから」
たぶん、ハルマがすねているはずだと……とキラは言う。
「別に、父さんはすねているわけじゃないぞ!」
その瞬間、ハルマがこう叫んだ。
「ただ、心構えがまだできないだけだ」
こんなに早く、キラが婚約をするとは思わなかったから……と彼は続ける。
「ムウ君もラウ君もまだなのに」
一番年下のキラが、とため息をつかれてしまった。
「父さん」
「わかっているんだよ。でも、せめて二十歳になるまでは手元に置いておきたかったな、と」
だから、本音を言えばイザークにはまだ会いたくなかったのだ。しかし、ここまでお膳立てをされてしまっては、逃げ出すわけにはいかない。
そう言って、ハルマはまたため息をつく。
「でも、すぐに式を挙げるわけではないですよ」
今まで黙っていて聞いていたカナードが口を挟んでくる。
「しばらくは準備期間ですから」
カガリがそう決めた、と彼は笑う。
「それに、ムウ兄さんには意中の方がいるようですしね」
彼ががんばって彼女を口説き落とせば、さらにキラ達の式が延びる。そう彼は続けた。
「どちらにしても、今しばらくはキラは俺たちと一緒です」
だから、そんなに騒がなくても……と彼は苦笑とともに告げる。
「そうか」
口ではそういうものの、まだ納得していないのだろうか。その表情はさえない。
「……父さん……」
父親はそういうものらしいとはわかっていても、やはりこんな態度を見せられると悲しくなる。
「あなた」
さすがにそれには怒りを感じているのだろうか。カリダの声が少しだけ低くなる。
「往生際が悪いわよ?」
父親なら祝福してあげて、と彼女は続けた。
「だが、カリダ」
「あちらには姉さんもいるのよ? ラウ君も向こうに残ると言っているし。何も心配はいらないわ」
何よりも、と彼女は言葉を重ねる。
「カガリ様が黙っているわけないでしょう?」
だから、その日までキラをかわいがればいいだけでしょう、と言い切る彼女は父よりも強いのではないか。
「さすがは、母さん」
「否定はできないな」
キラのつぶやきにカナードもうなずく。
「でも……大丈夫かな?」
そんな彼にキラは問いかける。
「大丈夫だ。後は、ムウ兄さんに押しつければいい」
苦笑とともにそう言う。
「何を俺に押しつけるって?」
タイミングがいいのか悪いのか。そこにムウが戻ってきた。と言うことはイザーク達も一緒だろう。
「後で、お父さんのやけ酒につきあってください、と言うことです」
それにカナードは即座にこう言い返す。
「あぁ、なるほどな」
それに彼はすぐに納得をしたという表情を作った。
「ともかく、連れてきたから、入れますよ?」
覚悟を決めてくれ、とその表情のままムウはハルマに声をかける。それに父は渋々うなずいて見せた。
もっとも、顔を見た瞬間、ハルマはイザークを気に入ったらしい。それにキラ達はほっと胸をなで下ろしたのだった。