星々の輝きを君に
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戦争が終わったというのにうれしいとは思えない。
その理由はわかっていた。
「この戦争が終われば、キラを探しに行ける……と思っていたんだがな」
キラは見つかった。しかし、再会のシーンは自分が思い描いていたものとは真逆の光景になってしまった。
「俺が悪いのか?」
すべて、と呟いたときだ。
「まだ、それを認識されていませんでしたの?」
背後からあきれたような声が降ってきた。
「本当にお馬鹿さんですわね」
さらに声の主はこう付け加える。
「ラクス・クライン!」
何を、と口にしながら振り向く。
「本当のことではありませんの?」
もっと早くに気がつくべきだった。それができなかったからこそ、キラの傷をえぐってくれたのではないか。
「彼女がどれだけ苦しんでいたのか、想像もしたことがありませんでしょう?」
アスランの言動のせいで、と彼女は詰め寄ってくる。
「……それは……」
自分がすることなら彼女は何をしても許してくれると信じてたからだ。
あの頃は最終的に自分の言葉を受け入れてくれてたから、アスランは心の中だけで告げる。しかし、それを口に出すことができない。
自分のその認識自体が間違っていたのだ、と今ならばわかるのだ。
「まぁ、すべては自業自得ですわね。挽回のチャンスをご自分の馬鹿な思い込みでつぶしてきたのはあなたですもの」
ラウもかなり恩情をかけていたようだが、と彼女は続ける。
「まぁ、どちらにしてもわたくしが邪魔をさせていただきましたが」
いや、自分だけではなく本国にいる者達もだ……とさらに言葉を重ねた。
「どういうことですか?」
「本国から指示がありました。近日中にわたくし達の結婚について正式なスケジュールを決めるそうですわ」
アスランの言葉にラクスはこう言い返してくる。
「……結婚の?」
まだ早いのではないか。アスランはそう思う。
「国外のことが片付いたので、今度は国内を落ち着かせるために対策をとろうと言うことでしょうね
穏健派と強硬派。
それぞれに属している人々が本格的にいがみ合う前に沈下しなければいけない。
その中で一番わかりやすいのは、自分とアスランの結婚ではないか。
確かに、アスランの父であるパトリックは強硬派の代表だし、ラクスの父であるパトリックは穏健派の代表と思われている。
その子供である自分達が結婚することで、二人の中が良好だと知らしめることは可能だろう。
「……性急すぎるだろう」
戦後処理も終わっていないのに、とアスランは呟く。
「だから、ですわ。戦後の混乱が収束すると同時に式を挙げる。それが一番いいと考えているのでしょう」
そして、自分達にはそれを拒む権利はない。
「そう言うことですから、あきらめてください」
自分達の立場であれば受け入れる以外にできないのだから。そう彼女は続けた。
「不本意であろうと、何であろうと、わたくし達の婚約は解消することはできません。婚姻のこともです」
アスランにも、すぐに詳しい話が来るだろう。その前に状況を説明したのは心構えをしておいてほしいからだ。彼女はそうも続ける。
「いきなり聞かされれば、あなたは絶対『いやだ』とおっしゃるでしょうから」
それが許されるはずがないのに、と言われても納得できるはずがない。
「結婚なんて、まだ考えられません」
ため息とともにそう告げる。
「それでも、わたくし達の義務ですわ」
自分達は今まで、その生まれで優遇されてきた部分があるではないか。だから、と彼女は続ける。
「その対価を払う必要がありますわ」
違うのか、と言われて、すぐにはうなずけない。しかし、自分には義務があると言うこともわかっているつもりだ。
「……でも、俺は……」
それでもすぐに納得できないのは、キラの存在があるからだろう。
「本当に女々しいですわね、あなたは」
彼の気持ちを察したのか。ラクスがこう言う。
「勝手に言ってください」
自分の存在意義を根底からひっくり返されたのだ。せめて、好きなだけ落ち込ませてほしい。そう考えるアスランだった。