星々の輝きを君に
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自分はキラの一番にはなれない。
逆に怖がられている。
しかも、だ。
父が彼女を疎んじているとは、予想もしていなかった。
「……俺には、キラが一番なのに……」
彼女からは同じ気持ちを返してもらえない。
そんな自分の存在に、果たして意味があるのだろうか。
「あるはずないな」
キラのためにがんばってきたのだ。決して他の誰かのためではない。
それに、とアスランは続ける。
父がキラを疎んじているどころか殺そうとしていたという可能性がある以上、自分の存在は彼女にとって危険でしかない。
だから、離れなければいけないのだ。
それがわかっていても、できるかどうかは別問題だろう。
「キラから離れるなんて……」
できるはずがない。
「いっそ、戦死してやろうか」
そうすれば、彼女の記憶には残るだろう。一生、忘れないでいてくれるかもしれない。
だが、と彼はため息をつく。
そんなことをしようとしたとしても邪魔されるに決まっている。そして、その後にどのようなことが待っているか。そう考えれば、実行しようとするだけ無駄だろう。
「キラが男だったら、また違ったのか?」
そう考えて、すぐに苦笑を浮かべる。
きっと結果は同じだっただろう。
いや、もっと執着していたかもしれない。
「どちらにしろ、同じか」
キラという存在がいたから、今の自分がいる。そして、自分が自分であるために《キラ・ヤマト》と言う存在が必要なのだ。
そばにいて、自分を支えていてほしい。
そして、自分だけを見ていてほしい。
「結局は、堂々巡りか」
言葉とともにため息をはき出したときだ。
『アスラン、準備はいいな?』
通信機越しにミゲルの声が届く。
「……いつでも」
不本意ながら、と心の中で付け加えた。
『なら、いい。先行するぞ』
言葉とともにモニターに指示が表示される。
「了解」
戦う気分ではないが、仕方がない。自分はザフトの一員なのだ。
そう考えて意識を切り替えようとする。
だが、成功しているとは思えない。
「……俺は……」
こんな気持ちで戦場に立っていいのだろうか。そう考えたときだ。
『アスラン』
ため息とともにミゲルが呼びかけてくる。
「何だ?」
『一つだけ、いいことを教えてやる』
このままではみんなの士気にも関わるから、不本意だが……と彼は言葉を重ねた。
『生きていれば、また、関係を修復できる可能性があるぞ。好きの反対は嫌いじゃない。無視だ』
存在そのものを脳裏から消し去るのが究極だろうか。
しかし、キラはアスランを怖がっている。それは彼を意識しているからではないか。
『それでも、恋人にはなれないだろうがな』
キラの中の恐怖は薄まることはあっても消えることはない。だから、アスランが常にそばにいることは難しいだろう。
それでも、昔のように声をかけてくれるかもしれないぞ……と彼はため息とともに言った。
『まぁ、お前はそれじゃ不満だろうが』
それでも本気で嫌われているよりもましだと思うぞ、と言われてもすぐにはうなずけない。だが、それしかないと言うこともわかっていた。
『とりあえず、鬱憤は敵さんにぶつけろ』
確かに、それが一番前向きな考えだろうか。
「……そうだな」
今はそうするか、とアスランは呟いていた。