星々の輝きを君に
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いったい、何が均衡を破ったのか。少なくとも、自分の隊ではないと思う。自分達と同行しているカナードも、違う。
「と言うことは、あの人か」
残るは、別行動をしている彼だけだ。
「まぁ、早いか、遅いかの違いだろうな」
苦笑とともにラウがそう言う。
「それに」
彼はそのまま言葉を重ねる。
「彼が攻撃した、と言うことは、そこにあれがいると言うことだ」
自分達にとって最大の厄介者。
そう付け加えられれば、ラウが誰のことを指しているのかカナードにもわかった。
「でしょうね」
自分達と同じ――いや、それ以上にギナはアズラエルを嫌っている。それでも一息に息の根を止めないのは、彼を公式の場で裁く必要があるとわかっているからだろう。
「ところで、あれは使い物になるのですか?」
ふっと思い出した、と言うようにカナードは問いかける。
「イザークは良さそうですし、ディアッカも大丈夫でしょう。他の二人も直接は被害を被っていないから心配いらないと思いますが……」
最後の一人はどうなのか。
そう付け加えれば、ラウは苦笑を浮かべる。
「そこまで馬鹿だとは思いたくないがね」
だが、と彼は続けた。
「そんなそぶりが見えたなら、それなりの対処をするだけだね」
適当に破壊して後退させるしかないだろう。
「死なせてもいいが……キラが悲しむだろうしね」
見捨てればいいだろうに、と言う声が聞こえたような気がするのは錯覚だろうか。
「あの子は優しいから」
苦笑とともにカナードは言う。
「わかっているよ。そうなってほしいと思っていたのは私たちの方だからね」
アスランに関しては多少甘すぎるような気はする。しかし、それでも彼女が《友達》と思っている以上、下手に口を出すわけにはいかないだろう。
ラウの言葉に、カナードはうなずく。
「では、俺はこれで」
ラウの隊の作戦に、自分の存在は不必要だろう。それよりも、ギナのバックアップに回った方がいいのではないか。
「気をつけるように」
そんな彼の背中に向かってラウが声をかけてくる。
「はい」
わかっている、とは言い返さない。彼がどのような気持ちでそう言ったのか、わかったからだ。
「兄さんも」
だから、こう言い返す。
「もちろんだよ。キラとお茶をするためにも必ず無事で帰る予定だ」
そのときは、カナードもお茶請けを作るように……と笑いながら続ける。
「……兄さんも作ってください」
ムウ以外はほとんどが料理ができるのだから、と言い返す。
「兄さんのであれば、キラとカガリが喜びます」
「そうだね。考えておこう」
この言葉を確認してから、カナードは廊下へと滑り出た。
先ほどイザークに案内されてきた通路をそのまま戻る。
「……ギナ様が暴走していないといいのだが」
彼がその気になれば周囲への被害が大きくなる。だから、とカナードはため息をつく。
それでも、救いがあるとすればここが砂漠地帯だ、と言うことではないだろうか。
少なくとも、建物への被害はないと言える。
「ともかく、あれの身柄さえ押さえてしまえば、戦争を終わらせることができるはずだ」
だから、と呟く。
「できることは何でもするさ」
その言葉とともに彼は歩く速度を速めた。