星々の輝きを君に
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ノックの理由は、バルトフェルドからの呼び出しだった。
キラ達――特にカガリ――にはくれぐれも部屋から出ないようにと念を押して彼の元へと向かう。
「何かあったのか?」
勝手知ったる他人に家、とばかりにムウはバルトフェルドの執務室へと踏み込むと同時に問いかけた。
「何かあった、と言うわけではないがね。厄介事には違いない」
苦笑とともに彼は言い返してくる。
「クルーゼ隊長経由で届いた情報だ。ブルーコスモスの盟主がおいでだそうだ」
「アズラエルが?」
マジか、とそう呟く。
だが、すぐにあり得ると思い直す。
「……口実はユウナか」
セイランから依頼されたのだろう。だが、その真の目的はユウナ・ロマの救出ではない。間違いなく《キラ》だ。
「口実は、と言ったね」
しっかりとその言葉を聞きとがめてくれたらしい。バルトフェルドが聞き返してきた。
「あいつらにしてみれば、ユウナ・ロマなんてどうでもいいんだよ」
言葉は悪いが代わりはいくらでもいるからな、とため息をつく。
「本当の意味でほしいのはキラか……カナードだろうな」
もっとも、とムウは苦笑を浮かべる。
カナードは生きたまま手に入れるのが難しい。しかし、そんな彼を無条件で自分達の指示に従わせる方法があることを連中は知っている。
「なるほど……まずはキラ嬢を手に入れてしまえば、君たちを自由にできる、と」
バルトフェルドもそれに気がついたのか。こう言ってうなずいてみせる。
「そう言うことだ」
それでなくても、とムウは続けた。
「キラの子供ならば優秀に決まっているからな」
死ぬほど不本意だが、どんな相手だとしてもだ。
「それだけじゃない。前に話したかもしれないが、連中はあいつが実のご両親の研究データーを持っていると信じ切っている」
それがほしいんだろうよ、とため息混じりに付け加えた。
「その内容を聞いてもかまわないかな?」
他言無用なら自分の胸にだけ納めておくが。彼はそうも続けた。
「……人工子宮だよ」
それも、完成間近だった。そうムウは言う。
「人工子宮、か」
言葉とともに彼は複雑な表情を作る。
「プラントにしてみればのどから手が出るほどほしいものだが……何で、地球軍が?」
「ソウキスに替わる新しい下僕がほしいらしい」
人工子宮であれば好きなだけ作れるからな、と言い返す。
「まさしく、工場か」
「そう言うことだ」
その元となる遺伝子に、キラとカナードのものを使いたいらしい。
「カナードは自分で自分の身を守れるが、キラは、な」
だから、自分達がいるのだが……とムウは言う。
「……どちらにしろ、女性を守るのは男として当然だからな」
無条件で協力させてもらうよ、とバルトフェルドは言う。
「個人的には、人工子宮の完成は願ってもないことだしね」
アイシャも同じ事を言うはずだ。そう言って彼は笑う。それがどうしてなのか、プラントの事情に疎いムウにも想像が付く。
「そうだな。子供は、愛してくれる両親の元に生まれるべきだし」
こう言ってしまったのは、自分達の過去を思い出したからだろうか。だが、子供は愛されるべきだ、と言うのは間違いなくムウの本音だ。
「確かに。決して誰かに利用されるための存在であってはいけない」
と言うことで、当人を見つけたら即座に捕縛に動くぞ……と彼は言う。
「任せるよ」
重要なのは、誰が手柄を立てるかではない。確実に驚異を排除することだ。そういうムウに、バルトフェルドは静かにうなずいて見せた。