星々の輝きを君に
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振動が伝わってくることで、かろうじてここが今までいたホテルではない、とわかる。
しかし、だ。
「……ここだけは平和だよな」
特に目の前の光景が、とカガリはため息をつく。
「いいじゃないか。キラとラクス嬢までぴりぴりしていては、こっちが困るだろう?」
二人は戦場の空気は知っていても、実際にその手に武器を取って戦うわけではない。
いや、そうしてほしくはない、と言った方が正しいのか。
「俺の勝手な気持ちかも知れないがな」
言葉とともに苦笑を浮かべた彼にカガリは違うというように首を横に振って見せた。
「私もそう思います」
あの二人には別の戦い方がある。それは自分にはまねできない方法だ。だから、いいではないか……とカガリは思う。
「そうだな」
その点を見誤ってドツボにはまる人間も多くいるが。そう言ってムウは笑った。
「その典型例はあれか?」
「……どちらですか?」
思い当たるのは二人ほどいるが、と思わず聞き返してしまう。
「とりあえず、お間抜けな方か?」
彼ほど彼女の実力を見誤っていた人間はいないのではないか。
優秀なのはキラがコーディネイターだから。
見目もいいから、そばに置いておけば優越感に浸れる。
何よりもカガリが大切にしている従妹だ。だから、愛人にしてももめることはないだろう。
こんな世迷い言を堂々と口にできるのは、本当に馬鹿だからではないか。
キラがいったいどれだけ努力をしてきたのか。それを知ろうともしないくせに。そう考えた瞬間、カガリの中にまた怒りがわき上がってくる。
「やっぱ、本気で一発、ぶん殴っておくべきだったか」
カナードとともにいじめたくても、彼の頭ではすぐにこぼれ落ちてしまいかねない。それよりも体にたたき込んだ方がいいような気がする。
「今回のことの責任追及、と言う名目なら、少しぐらいやり過ぎてもいいですよね?」
それとも、婦女暴行容疑でもかけてやろうか。
「それがいいかもしれないな。ギナ様にも証言してもらえば、ユウナが何を言っても無視されるに決まっている」
しかも、ここはザフトの支配地域だ。そこで厄介事を起こしかけた、と付け加えれば、ウナトも何も言えないのではないか。
「……まぁ、それに関しては今回のことが終わってからにしろ」
考えるのは止めないが。苦笑とともにムウがそう釘を刺してきた。
「カガリ……また、何か危ないことをしようとしているの?」
それを聞きつけたのだろう。キラがこう問いかけてくる。
「そう言うわけじゃない」
慌てたように言い返す。
「いい加減、ユウナを何とかしたい……と言っていただけだ」
さすがにうざくなってきたからな、と付け加える。そうでなければ、キラだけではなく自分の結婚についても邪魔されそうな気がする、とも。
「本当に?」
しかし、キラは疑いを解いてくれない。
「本当だよ。ですよね、ムウ兄さん」
「あぁ。それは間違いない。だから、カナード達が戻ってくるまで待て、と言っていたんだ」
あいつもしっかりと文句を言いたいだろうからな、と彼はうなずく。
「とりあえず、一つは片付いたし……厄介事はここで終わらせるに限る」
「そう言うことでしたら、わたくしも協力させていただきたいですわ」
微笑みながらラクスが会話に加わってくる。
「なら、いいけど……」
それでも疑わしそうな視線を向けてくるのは、過去のあれこれを覚えているからだろうか。
「本当だって。信用しろ」
な、と念を押せばキラはようやく首を縦に振って見せた。
まるでそれを待っていたかのようにドアがノックされる。
「……何かあったか?」
その瞬間、ムウの表情が引き締められた。
「お前たちは動くな」
こう言い残すと、彼は立ち上がる。そして、まっすぐにドアへと向かった。
「戦闘が始まるのかな?」
不安そうな表情でキラが呟く。
「大丈夫だって」
こう言いながらも、カガリの視線はムウの後を追いかけていた。