星々の輝きを君に
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バルトフェルドが口にする作戦内容とそれぞれの役割を耳にしながら、イザークはさりげなくアスランの様子を盗み見ていた。
ある意味、彼女たちの護衛が一番手薄になるのが作戦中なのだ。
もちろん、バルトフェルド達がそれを考えていないはずはない。それはわかっていても、どうしても不安なのだ。
「……イザーク」
そんな彼の耳にディアッカのいさめるようなささやきが届く。
「わかっている」
気に入らないことには変わりがな。それでも、状況を考えることは自分だってできる、とささやき返す。
「なら、いいが」
でも、とディアッカは続ける。
「何かあればちゃんと言えよ? 愚痴ぐらいならいつでもつきあってやるって。でも、のろけは勘弁な」
苦笑とともに言葉を重ねられて即座になんと言っていいのかわからなくなった。
「……今は、な」
そのうち、さんざんやってやる……と言い返すのが精一杯だ。
「はいはい。無事に終わったらいくらでも聞いてやるよ」
と言うことで意識を集中しようぜ、と彼はそれを受け流す。
「好きに言え!」
確かに、今はなれ合っているときではない。そう考えて意識を切り替える。
「地球軍の主力はバルトフェルド隊で引き受ける。クルーゼ隊は別行動をとっている連中を頼む」
ただし、とバルトフェルドは続けた。
「未確認情報だが、こちらにはMSらしきものが確認されている」
可能性はあると思っていたが、現実として突きつけられると別の感情がわき上がってくる。
自分たちが奪取した4機とストライク。その完成度の高さを見れば、他の機体もそれなりのできだろう。
問題があるとすればOSだけだろうが、それもパイロットがソウキスであれば解消できるのではないか。
「……相手がわからないというのは、やっかいだな」
たとえどのような手段を使ったとしても勝たなければいけない。そうでなければ、故国だけではなく大切な存在が奪われる。
それを認められる人間がいるだろうか。
プラントと地球連合が戦争へと突き進んだのも、自分たちがザフトへと志願したのも、ユニウスセブンの一件があったからだ。
あのときは、ただの義憤からだった。
だが、今は違う。
自分には守らなければいけない存在がいる。キラのために、と言う名目を口にしては本人がいやがるだろう。しかし、彼女の存在があれば、自分は無駄な殺戮をしないですむのではないか。そうも考える。
地球軍の兵士にだって、大切な相手がいるのではないか。そう気づいたからだ。
以前なら、きっと、そんなことを考えることはなかっただろう。
だが、自分にそのような存在ができた今はそうではない。
誰もがそんな考えを持っていれば、間違いなく戦争は終わるはずだ。
そのためにも、まずはここで勝利をしなければいけない。
「……キラを守るためなら、多少の事には目をつぶるさ」
自分に言い聞かせるようにこう呟く。そう考えているのは自分だけではないはずだ。きっと、ラウやカナード達も同じ気持ちだろう。
「だが、何故、この辺境の基地にこれほどの戦力を?」
疑問があるとすれば、それだ。
あるいは、キラにはまだ、自分が知らない秘密があるのかもしれない。しかし、キラの兄たちが自分に伝えていないと言うことは、知らない方がいいことなのではないか。
何よりも、それもこちらが勝利を収めればいいだけのことだろう。
そうなると、やはり問題なのはアスランだろうか。
だが、すでにラウ達が対策をとっているのではないか……とすぐに思い直す。
何よりも、アスランがそこまで馬鹿ではないと信じたい。
「状況によっては援軍が出てくるかもしれないが、まぁ、それは見なかったことにしておいてくれ」
自分の思考に沈みかけていた彼の耳にバルトフェルドの意味ありげな言葉が届く。
「……わかりました」
きっと、二人のうちのどちらかなのだろう。そう判断したのはイザークだけではなかったらしい。
「こちらのフォーメーションが崩されない限りは無視します」
こう続けたのはミゲルだ。それはきっと、カナードに負けた悔しさも含まれているのではないか。
「では、すぐに行動を開始したまえ」
即座にラウが指示を出してくる。
「はい」
指示をされたら従うのが軍人だ。だから、と即座に言葉を返す。
「姫君達のことは心配いらない。ちゃんと護衛もつけてある。万が一の時の対策もね」
笑いながらバルトフェルドがこんなセリフを口にする。
それだけが救いだ、と言うべきなのだろうか。すぐには判断できない。同時に、安堵していたこともまた事実だ。
「それに関しては隊長方の判断を信用しています」
きっと、カナード達も何か対策をしているはず。だから、と言外に付け加える。
「なら、後は無事に帰ってくることだね」
この言葉に誰もが無言でうなずいていた――アスランを除いて、だが――