星々の輝きを君に
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「いいこと? 誰かが迎えに来るまで、ここから出ないでね?」
パイロットスーツに身を包んだアイシャに念を押されたのは、つい先ほどのことだ。
「ついでに、この男がうかつに飛び出さないように見張っていてくれるとありがたいね。さすがに、戦場でこれのフォローまではしかねる」
さらにラウがムウを指さしてこう続ける。
「お前、な」
「宇宙ならばともかく、地上では今のあなたは足手まといです」
確かにそうかもしれないが、と彼は小声で呟いた。
「一応、俺にだって長兄としての矜持があるわけで……」
そんな風に面と向かって言われなくても、と彼は本気で表情を曇らせている。
「ムウ兄さん……」
「気にしなくていいよ、キラ。この男は君に心配してほしいだけだからね」
慰めようと思って口を開けば、ラウが先にこう言ってしまう。
「私とバルトフェルド隊長がいる以上、可能性は低いと思うが、いざというときにはその男が操縦するMSで戦場を離れなさい。三人ぐらいなら何とか乗れるはずだよ」
言外に、だからムウをおいていくのだ……と彼は教えてくれた。
「……そう言うことなら、妥協するしかないが……」
でもなぁ、とムウはまだ釈然としないようだ。
「アスランは出撃するのですか?」
それを無視してカガリが口を開く。
「連れて行くよ。あれでも隊の一員だからね」
盾ぐらいにはなるだろう。そう言ってラウは笑った。
「大丈夫よ。下手な行動をとったら無条件で撃つと言ってあるから」
決して、戦闘中に抜け出してキラ達の前に顔を出さないはずだ。アイシャがそう言って微笑む。
「ならよろしいですわ」
ふふ、と微笑んだのはラクスだ。
「ですからキラ様。ゆっくりとお話をしましょう?」
言葉とともに彼女はしっかりとキラ体を抱きしめてきた。
「ずるいぞ、ラクス!」
キラは私のだ! と意味もなくカガリが反論をしてくる。
「おいおい……そう言うセリフはあいつに言わせてやれって」
苦笑とともにムウが突っ込みを入れてきた。
「婚約しているだろう、キラは」
そう言うセリフは婚約者に言わせてやれって、と彼は続ける。
「……いいじゃないですか! こんな事を言えるのは今だけなんです!」
結婚したら滅多に会えなくなるのに、とカガリは言い返した。
「まだ当分は嫁にやらないから安心しなさい」
ため息とともにラウが言葉を投げつけてくる。
「あら、いいじゃない? これなら、勝手に抜け出さないでしょう」
アイシャが小さな笑いとともにそう言った。
「だから、いい子にしていてね」
言葉とともに彼女はきびすを返す。そのまま部屋の外へと出て行く。
「カナードやギナ様も協力してくれるそうだ。全員、無事に帰ってくるから、安心して待っていなさい」
さらにラウも言葉とともに彼女の後を追った。
「まぁ、あいつらなら心配いらないだろうが」
しかし、待っているだけとは性に合わない……とムウはため息をつく。
「と言って、お前らを放っていくのはもっと心配だしな」
カナードの方が戦場では役に立つ。だから、おとなしくそばにいてやるよ……と彼は苦笑とともに告げた。
「兄さん」
「だから、とりあえず、お茶を淹れてくれないか?」
他にすることはなさそうだし、とキラに視線を向けてくる。
「はい」
反射的に彼女は腰を浮かせた。
「それならば、わたくしもお手伝いしますわ」
にっこりと微笑みながらラクスがそう告げる。
「私も」
反射的にカガリも腰を浮かせようとした。
「頼むから、お前はおとなしくしていてくれ」
後が怖いから、と付け加えながら、ムウがそれを阻止する。
「私だって!」
「お前は家事はだめだろうが!」
二人のこんな会話に、キラは少しだけ心が軽くなったような気がした。