星々の輝きを君に

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 いったいどう言えば彼らを納得させられるのだろうか。
 それ以前に、どうして自分はこんなにも追い詰められているような気がしてならないのだろう。
「ここから逃げるにしても、あの子を連れ出せるとは思わないことだな」
 そして、とラウは続ける。
「だが、一人ならいくらでも逃げ出してくれていいぞ」
 ふっと笑う表情が怖い。彼がそんな表情をするときは、完全に相手を見限ったときだ。
 もっとも、だからどうしたというのか……とアスランは思う。
 キラのことがある以上、彼らが自分に悪感情以外のものを感じていないことをよく知っている。だから、今更ではないか。
「そうすれば無条件で軍法会議だ。ザラ委員長でもかばい立てはできない」
「まぁ、そのときには本国で幽閉させていただきますわ」
 クスクスと笑いながら、ラクスが信じられない言葉を口にしてくれる。
「ラクス・クライン?」
「はっきり言いましょうか? プラントに必要なのはあくまでも《ザラ家の嫡男》であるあなたの存在です。中身がどれだけへたれで馬鹿でストーカー気質だろうと何だろうと、義務さえ果たせればそれでいいのです」
 それがザラの家に生まれた人間の存在意義だ。そこまで彼女は言い切る。
「わたくしだとて、結局は同じ立場です。恋はともかく、結婚相手は自分で決められない、と最初から知っていました。ですから、わたくしはお友達を大切にするのですわ」
 友達だけは、自分で選ぶことができる。そして、自分自身が望む限り、そばにいてもらえる。
「あなたには、何がありますの?」
 何もないではないか。彼女は言外にそう言った。
「ラクス・クライン……」
「キラ様はあなたのものではありません。そうである以上、あなたの手の中には大切なものなど、何もないではありませんか」
 キラ一人に固執して友達を作ろうともしなかった。それどころか、手を差し出してくれたものまで無視していただろう。
 確かに、マイクロユニットを作り上げる技能と集中力は優れているかもしれない。だが、それも決して突出しているわけではないではないか。
 アスラン自身、それを自分だけのものとは思っていないだろう。
 ならば、アスランには何があるのか。
 その問いかけに、すぐに言葉を返すことができない。
 突きつけられた事実に、一瞬、自分が間違っているのではないか、と考えてしまった。
「……俺には、キラだけでいいんだ……」
 その気持ちを振り払おうと、アスランはこう呟く。
「だが、キラには貴様は必要ない」
 むしろ、その存在自体が害悪だ。カナードがきっぱりと言い切る。
「お前は、あいつのためにならないからな」
 閉じ込めて窒息させてしまう。その結果、キラという存在を壊してしまいかねない。
「何故、そう言いきれるんですか!」
「さっきも言っただろう。お前があいつのトラウマを刺激してくれるからだ」
 それだけで納得できないアスランの方がおかしい。カナードはそうも続ける。
「あのときまでは、キラ自身、忘れていたのに」
 この言葉に、怒りと憎しみすら感じさせた。
「……あの子は、月に行く前にさらわれたことがある」
 静かな声でラウが口を開く。
「体を拘束され、狭い箱の中に閉じ込められて、国外に連れ出されそうになった。それ以来、あの子は拘束されることも、狭い場所に閉じ込められることも苦手だ」
 MSの操縦を教えないのもそのためだ、と彼は続ける。
「あのときの記憶を幸いなことにあの子は忘れている。だが、思い出したらどうなるか。医師でもわからない、と言われたからね」
 自分たちもそれ以上詳しいことは知らない。知っているとすれば、この場ではムウだけだろう。だが、彼は決してそれについて口を開かないはずだ。
「その所為で、あの子の記憶が刺激されては困るからね」
 自分たちはそれを知らない方がいい。
「何に気をつけるか。それさえわかっていれば、あの子を傷つける心配はない」
 それで十分だ。彼はさらにこう付け加えた。
「そんなの、詭弁じゃないですか!」
 彼らの方がキラを人形扱いしているのではないか。アスランにはそう思える。
「お前は、キラが一番ひどかったときの様子を見ていないから、そんなことが言えるんだ」
 必死に怒りを押し殺している。それがわかる口調でカナードが言い返す。
「……カガリさんとカナード様以外、キラ様のおそばに近づけなかった、というのは本当ですの?」
 ふっと思い出した、と言うようにラクスが問いかけている。いったい、いつの間に彼女はそんな話を耳にしたのだろう。
「大人という大人を怖がっていたからな」
 キラの両親ですらだめだった。
 そのときのキラの様子を、自分は思い出したくない。そこまでカナードの言わせるとは、どれほどの状況だったのだろう。
「そこまで言われてもあなたは己の我を通しますか?」
 ラクスが問いかけてくる。
「本当にキラ様を大切だと思っておられるなら、身を退くのも一つの選択でしょう。それができないのであれば、あなたは自分以外を同等の存在だと考えていないことになります」
 ブルーコスモスがコーディネイターをただのものと考えているように、と彼女は続ける。そんな人間をキラが選ぶはずはない。さらにこう締めくくった。
「俺が、あいつらと同じ、だと?」
「違うとおっしゃるなら、キラ様のために何をすべきか、考えられることですわね。答えが出るまで、つきあって差し上げます」
 不本意ですが、と言う彼女に、アスランは口をつぐむことしかできなかった。


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