星々の輝きを君に
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やはり、アスランは自分のしたことを理解していなかった。
それだけでも許しがたいのに、己の行為を正当化しようとしている。
「あのとき、やはり、実力行使に出るべきだったか」
もしくは、月で被害届を出しておけばよかった。彼はそう呟く。
「あのときは、その方がいいと判断したのだろう?」
ハルマとカリダが、とラウがささやいてくる。
「それに、ウズミ様も賛成されたしな」
だから、あのときは仕方がなかった。下手につついてキラの秘密を知られるわけにはいかなかったし、とラウは言う。
「わかっています。ですが、その所為であの馬鹿が増長したのかと思えばいらつくだけです」
あのときは、アスランがキラに関わることはない、とそう信じていたのだ。それなのに、とため息をつく。
「婚約が決まったと聞いた時点で安心していたのが間違いでしたね」
「それは私も同じだよ」
ラクスはもちろん、ディアッカもイザークも自分の義務をきちんと理解している。だから、当然、アスランもそうだろうと考えていた。
しかし、それを無視してもかまわないと考えるほどキラに執着をしているとは思わなかった、とラウも口にする。
「全く……鳥の雛じゃあるまいし」
それならば、まだかわいげがあった……とカナードは吐き捨てた。
「あの視野の狭さを何とかしないといけない、と何度も言っていたのに、聞く耳を持たないし」
本当にやっかいなやつだった。
「そのつけが今回ってきているわけで……今、何とかしないといけないわけですよね」
全く、と口にしながらもカナードはようやく積年の鬱憤を晴らせると考えれば楽しくなってくる。ここまでくれば、もうだれ求めないだろう、とわかっているからだ。
「とりあえず、今晩中に片をつけます」
いいですよね? とラウに確認する。
「時間的にそうするしかないだろうね」
渋々という様子で彼がうなずいたときだ。
「自分のそばから好きな相手を話したくない、と思うのは当然のことでしょう? そして、あの頃はまだ、あなたと婚約していなかったと記憶しておりますが?」
ようやく、アスランは反撃の糸口を見つけたのか。そんなセリフを口にしている。
「……ご存じないのですね、何も」
だが、そんな彼にラクスはあきれたような表情を向けた。
「口約束とはいえ、あなたが生まれた時点でわたくし達の婚約は決まっていた……と父に聞いておりますわ」
アスランも話しに聞いたことがあるはずだ、と彼女は言い返す。
「ザラ様から、そのようにお聞きしています」
それは嘘だったのか、と彼女は言外に付け加えた。
「……そんな話……」
聞いた覚えがない、と言いかけて彼は続く言葉を飲み込む。
そのまま、彼は眉間にしわを寄せている。と言うことは、それらしい記憶を思い出したのだろう。だが、そのときの彼はそれを重く受け止めなかった、と言うことか。
きっと、それはアスランがその頃のキラを《男》だと認識していたからだろう。
だからといって、許されることではない。
「お聞きになったのでしょう?」
違うのか、とラクスがさらに突っ込んでいる。
「無理ですよ、ラクス嬢。そいつの頭の中は自分の都合のいいことしか覚えていない。それ以外のことを覚えていたとしても、口にするはずがない」
口にすれば、自分の非を認めることになるから、とカナードは言う。
「そうやって都合の悪いことをなかったことにしていったから、お前は頭の中身がガキのままなんだよ」
ほしいものはほしい。
相手にとってそれがどれだけマイナスになるかも考えずにそうわめくだけ。
「キラは人形ではない。ちゃんと自分の意思を持った人間だ」
だからこそ、アスランではない《誰か》を選ぶ権利を持っている。
「何が言いたいんですか!」
「キラにとって、お前は不要の存在だ。そう言うことだ」
あいつの中にはもう、アスランの存在が入り込む余地はない。そうさせたのは、アスラン自身だ、と彼は言い切った。
「何があろうと、あいつがお前を友人以上に見ることはない。もっともそれすら、危ないがな」
自業自得だ、とカナードは笑う。
「そうでなくても、もうあなたにその自由はありません」
ラクスが静かな声で宣言をする。
「この戦いがどのような結果を迎えようと、終わった時点で、あなたと私の結婚式が行われます。すでに、それは誰にも止めることはできません」
いくらアスランがここでだだをこねようと、万が一、キラがアスランを受け入れようとも、それは変えようがない。その言葉に、アスランは完全に言葉を失っていた。