星々の輝きを君に
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「ずいぶんとすてきなお姿ですわね、アスラン」
いったい、何故、ここに彼女がいるのか。その声を聞いた瞬間、真っ先に思い浮かんだのはこのセリフだった。
「あなたがあまりにふがいないから、活を入れてほしい。そう要請がありましたの」
意味がわかりますわね? と彼女は問いかけてくる。
「残念ながら、わかりかねます」
ラクスが今、地球にいる意味が……とアスランは言い返す。本国にしても《ザフトの歌姫》をこんな危険な地によこすはずがない。
だから、今しかチャンスがない、と思っていたのだ。
「本当にあきれますわね。権利とわがままをはき違えている方は」
そんなことを考えていれば、アスランの耳にラクスのこんなセリフが届く。
「何をおっしゃりたいのですか?」
自分はきちんと義務を果たしているではないか。第一、婚姻統制によらないカップルも多くいる。
次世代を生み出すという点であれば、対の遺伝子を持っているラクスと第一世代であるキラは同じくらい可能性を持っているはずだ。
「わたくし達はお互い以外の誰かを好きになる権利はあります。しかし、その方を伴侶と選ぼうとするのはわがままなのです」
何度も説明されているだろう、と彼女は続ける。
「何故、そう言えるのですか?」
次世代さえ残せれば、目的は達するのではないか。アスランはそう言いきる。
「いいえ。わたくし達の結婚は、たとえ次世代を残せなくてもまとめなければいけないものなのです」
つまり、アスランにこの婚約を解消する権利はない。これは義務なのだ、と彼女は続けた。
「あなたがザラの嫡子であり、わたくしがクラインの娘である以上、それは変えられません。今は別れている派閥を一つにし、ともに未来へ向かうためにも、です」
いやだと思っても、それは許されることではない。
それぞれの家に生まれた以上、黙って受け入れなければいけないことだ。彼女はそう続けた。
「そんな馬鹿なことが……」
あるはずがない。
「いいえ、本当ですわ。わたくし達の結婚はすでに個人のものではないのです」
プラントという国家。それを一つにまとめるための国策の一つなのだ。
「そうである以上、あなたはキラを手に入れることは許されません。彼女に友情以上のものを求めることはプラントのためになりませんもの」
オーブという国を敵に回しかねない。
プラントだけでは国民の生活を支えきれない以上、オーブの存在は必要なのだ。
「あなたはご自分のわがままのために、プラントの国民すべてを不幸にできますの?」
ザラの嫡子であるアスランが、と問いかけてくる。
「……俺がその地位を捨てたとしても、ですか?」
「それができると思っておられますの?」
思っているのであれば、馬鹿としか言いようがない。あきれたような口調で彼女は言う。
「もっとも、そうされた瞬間、あなたは犯罪者ですけど」
さらに予想外のセリフが彼女の口から飛び出した。
「誰が犯罪者ですか!」
「ですから、あなたです。アスラン・ザラ」
気づいていなかったのか、とラクスは真顔で問いかけてくる。
「三年前、あなたがキラにしたことはプラントでは犯罪です」
そして、そのときのアスランは、十分に責任を負えると判断される年齢だった。
「キラ様が男性であれば問題はなかったかもしれません。しかし、あの方は女性です。そして、まだ、十分に犯罪を問える時期です」
アスランがザラ家の跡取りだからこそ、オーブ側も穏便にしてくれているだけだ。それがなければ、犯罪者として告発されるだろう。
「そのおつもりではありませんの?」
視線を背後にいるカナードへ向けながら彼女は問いかけた。
「と言うよりも、三年前にそうするつもりだったんだがな」
自分は、と彼は続ける。
「それを我らとウズミで止めたのよ。二度とそれがキラに関わることはあるまい、と思っておったからな」
あるいは、相手が決まれば多少は落ち着くだろう。そう考えていたのだ。そう言ったのはギナだ。
「しかし、どうも、悪化しているようだ」
彼は冷たいまなざしのままこう告げる。
「こうなるとわかっておれば、遠慮などしなかったものを」
そう付け加えられて、アスランは唇をかむ。
自分は犯罪者ではない。
しかし、彼らはそう信じている。
いったいどう言い返せば、彼らを納得させられるのか。それを必死に考えていた。