星々の輝きを君に
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何故か、居心地が悪い。
だから、と言うわけではないが、ついつい、イザークとディアッカの陰に隠れるように移動してしまう。兄たちのそばではないのは、その原因ともいえる人物がそちらにいるから、というだけだ。
「見ろ、ラクス。すっかり、キラが怖がってしまったじゃないか」
カガリが彼女を非難するように言葉を綴る。
「あら……わたくしとしては普通のご挨拶のつもりだったのですが」
親しい友人同士はあのように挨拶をするものではないのか? とラクスはかわいらしく首をかしげてみせた。
「お前とキラは、初対面だ!」
肝心なことを忘れるな、とカガリは即座に突っ込んでいる。
「そうでしたわね。あまりにもキラ様の話を聞かされすぎててっきりお知り合いになっていたと思っておりましたわ」
申し訳ありません、とラクスは素直に謝罪の言葉を口にした。
「カガリからそんなに話を聞いていたのですか?」
状況がわからなかったのだろう。ディアッカがこう問いかけている。
「カガリとカナード様からもお聞きしましたが、一番はアスランからですわ」
その名前を聞いた瞬間、体がこわばった。
それに気づいたのか。イザークがそっと手を握ってくれる。
それだけで安心できるのはどうしてだろう。
「……申し訳ありません。キラ様を試させていただきました」
もっとも、アスランからキラの話を聞かされていたのは事実だが、とラクスは口にする。
「あの人の言っていた《キラ》とカガリから聞かされた《キラ》があまりに違いすぎましたから」
アスラン以外の全員がカガリと同じことを言っていたから、彼女が間違っていたとは思わない。それでも、どちらが正しいのか、自分の目で確認をしたかった。そう続ける。
「……それは、間違っていない、と思うから……」
気にしない、といえればどれだけよかっただろう。
きっと、再会する前ならばそう言えたのではないか。
だが、今のアスランの言動を目の前で見てしまっては、そうはいかない。
忘れていたあれこれまで思い出してしまって、名前を聞いただけで恐怖が襲ってくるのだ。
「ご心配なく。もう二度としませんわ」
それだけではない、と彼女は続ける。
「こうなれば、責任を持ってアスランの性根をたたき直しましょう」
それが婚約者としての義務ではないか。彼女はきっぱりと言い切った。
「そもそも、このようなときにすべきことではありませんでしょう?」
明日にも地球軍が押し寄せてくるかもしれない。そのようなときに自分の感情を優先するような人間は認められない。
まして、自分たちは公正でなければならない立場の人間なのだ……と彼女は続けた。
「と言うわけですから、カガリさん。安心してくださいませ」
ふふっ、とラクスは笑いを漏らす。
その表情はとても柔らかい。それなのに、どこか怖いと感じてしまうのはどうしてなのだろうか。
「心配するな、キラ。ラクス嬢は有言実行の方だ」
アスランを徹底的に締め上げてくれるはず、とイザークがささやいてくる。
「そうそう。それに隊長とカナードさんだろう?」
あの二人ですらアスランは反論ができなくなっていたのだ。それにラクスが加わればどうなるか。ディアッカもこう言ってうなずいてみせる。
「これで、ミナがいればもっと楽しいことになっていただろうな」
いったいいつの間に近づいてきていたのだろう。ギナがこんなセリフを口にする。
「まぁ、ラウがおれば、私でもその程度のことはできるか」
彼はさらにこんなセリフを口にした。
「ギナ様」
「だから、お前は安心して、それらと待っていればよい」
言葉とともに彼はキラの髪をなでてくれる。
「ですが……」
「ついでに、あの跳ねっ返りの手綱を握っておれ。一緒に連れて行けば、何をしでかすかわからんからな」
実力行使は最後の手段だろう、と言われて、否定できない。
「そうだな。出かけるのは無理だが、基地内でゆっくりできる場所もある。そこに行くのもいいだろう」
イザークが微笑みながら言葉を口にする。
「あれらのことはムウに任せておけ」
いや、それが一番心配なのだが。そう思わずにはいられない。しかし、自分はアスランの前に顔を出さない方がいいこともわかっている。
「……はい」
だから、キラにはこう言い返す以外の選択肢が残されていなかった。