星々の輝きを君に
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まさか、彼女が今、ここにいるとは誰も予想していなかったのだろう。その姿に驚きを隠せない、と言う表情をしている。
「お忙しいときに申し訳ありません、バルトフェルド隊長」
その中で、ラクスはあくまでも優雅な所作でそう告げる。
「本日は、個人的な用件で参りましたの。ですから、お気遣いは無用ですわ」
それよりも、と彼女は続ける。
「わたくしの婚約者はどこにいるのでしょうか」
至急しなければいけない話があるのだが。彼女はそう言って微笑む。その瞬間、周囲に微妙な空気が漂い始めた。
本当に彼はいったい何をしでかしたのか。
そう考えて、かすかに眉を寄せたときだ。
「ラクスさん」
聞き覚えのある声が耳に届く。
「まぁ、ニコル様。お久しぶりですわ」
微笑みを作ると、彼へと視線を向ける。
「お元気そうですわね」
「……アスランがおとなしくしていてくれるともっと元気だと思うんですが」
苦笑ともに彼はこう言ってきた。
「それで、わたくしに声がかかったのですね」
困ったものだ、とため息をついてみせる。
「とりあえず、会わないわけにはいきませんわね」
そして、話をしなければ……と彼女は続ける。その瞬間、ニコルがいやそうな表情を作ったのは、彼が自分と同類だから、だろう。
「そうしてください。でも、今、バルトフェルド隊長もうちの隊長も手が離せないので、しばらく待っていただけるとありがたいのですが」
言外に、彼らも同席したいと言っている、と彼は告げた。
「それはかまいませんが……わたくしも、あまり時間はありませんの」
「大丈夫です。あと一時間ぐらいですから」
それに、と彼は続ける。
「いろいろと打ち合わせをしておいた方がいいと思うんですよ」
含みのあるその言葉の裏に隠されている意味がわからないわけではない。
「言われてみれば、そうですわね」
小さくうなずいてみせる。
「カガリさんもギナ様も、それでよろしいでしょうか」
そう言ってラクスは振り向く。
「別にかまわないぞ」
「確かに。ここで完全に引導を渡せるなら、な」
二人はそう言ってうなずいて見せた。
「では、こちらに。アスランの見物もできますよ」
ニコルがそこはかとなく腹黒さを感じさせる笑みとともに言葉を口にする。
「アスランの見物?」
営巣にいるのではないか? とカガリが問いかけた。
「お二人が出かけられた後、脱走してくれたんですよ。大捕物がありました」
さすがにムウにはかなわなかったようだが、とニコルが教えてくれる。
「どうせ、ムウ兄さんがナチュラルだから、と見下したんだろう、あいつは」
あきれたようにカガリが言う。
「ミナと互角だからな、ムウは。普通のコーディネイターなら、あいつの方が勝つ」
その程度できなければ、あの手のかかる弟たちの《兄》はつとまるまい、とギナは笑った。
「ここにも暴走娘がおるしな」
「ギナ様!」
即座にカガリは反論の言葉を口にする。しかし、それが事実なのだろう、とラクスも思う。
「そのあたりのことも聞かせてくださいませ」
小さな微笑みとともに彼女は言葉を口にする。
「そうしよう。ムウ達とも話をせずばなるまい」
ギナはこの一言でカガリの言動を封じた。封じられた本人は、それに憮然としている。
「こっちです」
ここでこれ以上口論しても意味はないと判断したのだろう。ニコルは言葉と共に歩き出す。
「そうですわね。アスランの姿を見て笑い飛ばすのもいいかもしれません」
参りましょうとカガリの腕をとる。そのまま、ラクスも歩き出した。