星々の輝きを君に
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しかし、事態は想像の斜め上を行っていた。
「……トロイの木馬、ね」
ある意味、古典的なウィルスだ。それだけに使い方によってはものすごく有効的だと言っていい。
「キラ嬢と二人ですべてのシステムを確認しましたが……医療システムの他に外部との連絡関係のシステムに仕掛けられていました」
気づけなかった自分の失態だ、と彼は続ける。
「まぁ、それについては後で相談することにして」
ダコスタに押しつけていた自分も悪いから、とバルトフェルドは言う。
「しかし、今までもチェックはしてきたんだろう? なのに、どうして今日、気がついたんだ」
そちらの方が問題だ。彼はそう続ける。
「転送量が増えたからです」
それに言葉を返したのはキラだ。
「転送量?」
「今までは、一部のメールと医療データーだけが流出していましたが、最近はすべての通信ログが転送されるように設定を変更されています」
静かな声で彼女はそう続ける。
「しかし、ここのシステムは変わっていませんから、それが負荷となって作業が低下したと思います」
まずは、それで一番貧弱だった医療システムに不具合が出たのではないか。
キラのその推測は間違っていないのではないか、とイザークも思う。同時に、こうして作業をしているときの彼女はりりしいと感じる。
「おもしろいな」
本当に彼女は自分を飽きさせない。次々と新しい面を見せてくれる。
「そう言うところも好みだけどな」
ぼそっとそう呟く。
「マジで下手惚れだな、お前」
小さな笑いとともにディアッカがこう言ってきた。
「悪いか?」
「いや。そのくらいでないと、な」
キラのためには、と彼は笑う。
「第一、そのくらいでないと、あいつの二の舞になるぞ」
それが誰のことか、確認しなくてもわかる。
「……あれと一緒にするな」
あそこまで何も見えない人間だとは思わなかった。言外にそう付け加えながらイザークは言い返す。
「同じくらい、キラが何を背負っているのか、気にかかるが……」
それを自分が知っていていいものかどうか。そのあたりは後でラウかカナードあたりに聞いてみた方がいいかもしれない。
だが、今はアスランを何とかする方が優先ではないか。
「全く……あれを何とかしないと、俺たちは負けるぞ」
アカデミー時代、あんなのに自分は勝てなかったのか、と本気で頭を抱えたくなる。
「アカデミーでの成績よりも、その後のことの方が重要だがね」
いきなり、声をかけられて思わず叫びそうになった。それ以上にショックだったのは、近づいてこられたのがわからなかったことかもしれない。
「どういうことですか? 隊長」
ため息とともにディアッカが声をかける。
「頭でっかちの人間は早々にあの世に行く。必要なのは実践の場で柔軟な対応ができるものだよ」
だから、ミゲルは強いのだ。彼はそう続けた。
「アスランのように己のみたいものしか見ないようでは、近いうちにあの世に行くだろうね」
困ったものだ、と彼はため息をつく。
「まぁ、アスランのことは後でもいい。問題はこちらだよ」
さて、どうなるか。そう続ける理由はわかる。
「どこに流出していたのでしょうk」
話題を変えるためにイザークはこう問いかけた。
「それはこれからの作業だそうだよ。もっとも、キラなら今日中に突き止めるだろうが……」
問題は集中しすぎることか、と彼はため息をつく。
「こうなるとわかっていたなら、カガリに居残るように言っておくんだったね」
彼女であれば安心できるのだが、とラウは言った。
「こうなったら、こいつに任せるしかないんじゃないですか?」
そのあたりのことは、と付け加えながら、ディアッカがイザークの頭をたたいてくる。
「ディアッカ!」
何をする、と言い返そうとした。
「ふむ。妙案だね」
しかし、それよりも早く、ラウがうなずく。
「では、いつものようにキラの護衛を頼もうか」
さらにあっさりと処遇が決まってしまう。しかも、それは自分にとっては諸手を挙げて歓迎する内容だ、と言うのがどこか悔しいイザークだった。