星々の輝きを君に
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オーブ製の機体の外にはムウとカナードしかいない。だが、ムウがドリンクを持って行ったことから判断して、コクピットに誰かがいるのは間違いないだろう。
「キラ、か?」
それとも、他の誰かか、とアスランは呟く。
「どちらにしろ、確認しないといけないな」
彼女がいるかどうかを、と続ける。
ギナがいない以上、そちらにいる可能性はある。だが、あの二人がそろっている以上、自分たちで守ろうと考える可能性もあるのだ。
しかし、どうやって近づくか。
この距離だからこそ、気づかれてないのではないか、とアスランは思う。
それに、この先、あの機体のところまで自分が身を隠せるような場所はない。
「しかし、いつまでもぐずぐずしている訳にはいかないよな」
おそらく、ミゲル達が中心になって自分を探しているはず。
そして、自分が何を目的にしているか。彼らは知っているのだ。
キラがいそうな場所を重点的に探しているに決まっている。
ここに彼らがいないのは、間違いなく、カナード達がいるからだ。
彼らであれば、自分が何をやっても対処できると考えているのだろう。
確かに、それは否定できない。
「でも、俺はキラに会わなければいけないんだ」
そして、話をしなければいけない。
「間違いを『間違っている』と指摘する人間が必要だろう?」
カナード達はキラに甘いから、彼女が望めば受け入れてしまうに決まっている。
「キラは、俺のそばにいないとだめなんだ」
それが当然なんだ、とアスランは呟く。
「あいつだって、それはわかっているはずなのに」
何故、自分を選ばないのか。
「やっぱり、ラクスの存在のせいか?」
しかし、ラクスに婚約を解消させるためにはキラが自分を受け入れてくれることが前提になる。そう考えると、堂々巡りだ。
だから、とアスランは続けた。
「やっぱり、キラを説得するのが優先か」
話をすれば、絶対に彼女は受け入れてくれる。いつだって、そうだった。
そんなことを考えていたときだ。
「では、兄さん。俺はこれをロンド・ギナに渡してきます」
カナードがディスクカードを持って立ち上がったのが見える。
「わかった。こっちは任せておけ」
そんな彼にムウが笑いながら手を振って見せた。
「これなら、何とかなるか?」
彼は確かに優れた軍人かもしれない。だが、所詮、ナチュラルだ。
「条件が同じならば、コーディネイターの方が有利に決まっている」
隙を見て、コクピットにいる人間が誰なのか、確認できるだろう。もし、違っていても逃げ出すことは可能なはずだ。
ナチュラルが身体能力でコーディネイターにかなうはずがない。その事実は、キラだって知っているはずだ。
だから、と思いながらアスランはタイミングを計る。
「すぐに戻ってきます。ですから、無茶はしないでくださいよ?」
笑いながらカナードがいう。彼がキラ以外にあんな表情を向けるとは思ってもいなかった。
それとも、彼のあの態度は自分に対してだけだったのか。
もし、そうだとするのであれば、それはどうしてなのだろう。
「……まぁ、あの人にとって俺は邪魔者だったからな」
それは間違いなく、キラの隣を奪われると思っていたからに決まっている。
結局は自分が彼女にふさわしいと彼も認識していたのではないか。
「まぁ、いい。キラの言葉なら、あの日とも納得しないわけにはいかないだろうし」
そう。
すべての鍵は彼女なのだ。
だから、絶対に手を入れる。
そう考えているアスランの前をカナードが通り過ぎていく。
だが、すぐに動くわけにはいかない。
彼の気配が完全に消えるまで、黙ってその場に潜んでいた。
だが、彼のその思惑がかなうことはなかった。