星々の輝きを君に
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アスランの姿がここに現れたのは、それから少したってのことだった。
本人は隠れているつもりなのだろうが、気配まではごまかせない。
「おやおや。タイミングがいいな」
にやり、とムウが笑う。
「そうですね」
カナードも同意を示す。
「キラを移動させておいて正解でした」
彼女がここにいなければ、多少、強引な手段を使ってもかまわないだろう。カナードはそう言って笑った。
「ラウの立場もある。手加減しろよ?」
あれでも貴重な戦力だ、とムウは一応釘を刺しておく。
「善処します」
これは、自分の言葉を無視するな……とため息をつく。
まぁ、それだけアスランの言動に怒りを感じているのだろう。
それも当然か、と心の中で呟いた。自分が彼の立場であれば、きっと同じ判断をしただろう。
そうしないのは、自分があの一件の当事者ではなかった、ということだ。
もちろん、それだからといって怒りを感じていないわけではない。ただ、自分がアスランに対して抱いている怒りは、カナード達から聞いた話、というワンクッションを挟んだ物だ。だから、どこか引いていることは否定しない。
「……とりあえず、殺人だけは阻止するか」
骨の一本でも折って動けなくするのはいいかもしれない。
「後は、他の連中にも声をかけておかないとな」
自分たちだけでやっては後々恨まれかねないだろう。間に合わないといてもこちらにやっていて、最後のとどめぐらいは刺したいと思うのではないか。
「バルトフェルド隊長にも、ですね」
彼は責任者だから、とカナードはささやいてくる。
「ということで、コクピットにあの子がいることにしましょう」
それならば、アスランも近づいてこなければ確認ができないはずだ。その間にこちらが動くチャンスもあるはず。
「じゃ、ドリンクでも差し入れるか」
ムウはそう言って笑った。
「そうですね」
そのくらいの偽装はしておくべきだろう。
「問題は、あいつが引っかかるか、ですが……」
「大丈夫だろう」
中にも人がいるからな、とムウは言い返す。ただ、それがキラではないだけだ。
「そうですね」
言葉とともに、カナードは足下に置いていたボックスからドリンクのカップを取り出す。そして、それをムウへと投げてきた。
「サンキュ」
「まずはあの子に」
「わかっているって」
言葉を返すと、そのまま立ち上がる。そして、ハッチへと足を向けた。
「ほら。水分補給をしておけ」
そのまま、親しげな口調を作って手渡す。
「何か?」
即座にこう聞き返された。どうやら、外での会話はここまで届いていないらしい。
「困ったちゃんがきているからな。とりあえず、キラがここにいると思わせたい」
というわけで、いいというまで出てくるな、と続ける。
「はい」
わかりました、とソウキスの一人がうなずいて見せた。
「後、ギナに連絡を頼む」
そうすれば、自動的にラウにも伝わるはずだ。そういえば、彼はうなずいてみせる。
「本人はアイシャ女史と一緒だから大丈夫だろう」
問題があるとすればカガリだが、彼女は今、ディアッカに押しつけてある。だから、大丈夫だ、と思いたい。
「さて……おとなしく引っかかってくれるといいんだけどな」
小さな声で呟くと、ハッチから出る。
「あまり根を詰めるなよ」
この言葉に、彼がうなずく。それを確認して視線を移動させたときだ。物陰に隠れる紫紺が確認できる。
その瞬間、自分の口元に笑みが浮かんだのがわかった。