星々の輝きを君に
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「いいですか、みなさん」
そう言いながら、彼は周囲を見回す。
「あちらには、オーブの有力者の子女が掴まっているそうです。しかも、その身の安全を盾に協力を迫られているそうですよ」
そのせいでこちらが不利益を被っているのであれば、それは正さないといけないのではないか。彼は続ける。
「そう言うことですから、みなさん。頑張ってくださいね」
口元は確かに笑みを形作っていた。しかし、男の瞳は爬虫類のようにどこか不気味な光をたたえている。
「青き清浄なる世界のために」
その唇からでたのは現代の狂信者の祈りの言葉だった。
「暇だな」
カガリがため息混じりにこういう。
「そう?」
キーボードを叩きながらキラは言い返す。
「室内で出来る鍛錬はしてしまったからな」
やはり、外で汗を流さないと……と彼女は続ける。
「ごめん」
自分のせいだね、とキラは視線を落とした。
「そう言う意味じゃないって」
キラの側にいることはもちろん、この部屋にいることもいやではない。こうして待機しているのも重要なことだとわかっているから、と彼女は慌てたように口にする。
「ただ、手持ちぶさたというのが苦手なんだよ」
かといって、本を読むのも手芸なんかは苦手だし……と彼女は苦笑を浮かべた。
「お前をいじっていられるならいいんだが……それは急いで仕上げないといけないんだろう?」
逆に聞き返されて、キラは小さく首を縦に振ってみせる。
「さすがはカナード兄さん、と言っていいのか?」
キラが余計なことをしないようにしっかりとやるべき事を押しつけていったのか、とカガリは感心したように告げた。
「でも、これも急ぎだから……」
これが完成すれば、地球軍の動きを掴むのが楽になる。そうなれば、こちらも対処を取りやすくなるはずだ。
「それに……オーブの方も心配だし」
ぼそっとキラは付け加える。
「父上やミナ様がいるから心配はいらない、と思うが……セイランが何をしているか、わからないからな」
確かに、とカガリも頷いて見せた。
「特に、おばさま方の身の安全が心配だ」
あの二人の気柄を抑えられたら、キラとカナードはもちろん、年長の二人も迂闊に動けなくなる。
「まぁ、父上達がそのあたりのことを考えておられないはずがないか」
後は、連中が動くよりも先に全てを終わらせてしまうしかない。カガリはそう続けた。
「そうだね」
そうしなければ、安心してオーブに戻れない……とキラは頷く。
「イザークさんを父さん達に紹介したいし」
婚約するとは伝えて貰ったが、実際に彼を両親に会わせたことはない。だから、と彼女は続けた。
「そう言えば、あいつのことをおじさま達はなんと言っているんだ?」
「ディの親友だから、大丈夫だとは思ってくれているみたい」
カナードとラウが認めていて、ギナが黙認したというのもポイントが高いようだ。
でも、やっぱりあって話をしたいと思っているのではないか。
「母さんはともかく、父さんは過保護だし」
というよりも、母以外の者達はみんなそうなんだけど、とキラは苦笑と共に告げる。
「……安心しろ。おじさまは私にもそうだ」
それは安心すべきポイントなのか、と少し悩む。
「ともかく、もう少ししたらディが顔を出してくれるって昨日言っていたから……その時にでも、外に行こうか」
「あぁ、そうだな。ついでに、ちょっと付き合ってもらうか」
鍛錬に、とカガリは笑う。
「そうだね。でも、ディは疲れているんだからね」
多分、とキラは言葉を重ねた。
「わかっているって。でも、私一人の相手も出来ないようなほどじゃないだろう?」
完全に彼女の脳裏はディアッカとの手合わせで締められているらしい。こうなれば、付き合わせないと納得しないだろう。
「……ディ、ごめん」
諦めて付き合ってね、とキラは口の中だけで呟いていた。