星々の輝きを君に
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カナードとギナの顔を見た瞬間、キラの口元に笑みが浮かぶ。そのまま彼女は立ち上がると、彼へと駆け寄っていく。
「おかえりなさい、兄さん」
それは、一緒に過ごしてきた時間の長さのせいだとはわかっていても、少し悔しい。
しかし、とイザークは心の中で呟く。
それならば、少しでも彼に近づけばいいだけのことだ。
幸いなことに、自分にはそのための時間ならば与えられている。
だから、彼らとは違う意味でキラに頼ってもらえるようになればいい。自分に言い聞かせるように心の中でそう呟く。
「イザーク……頬がひきつっているぞ」
もっとも、それが成功しているかというと、話は別だ。
「まだまだだ、ということだな、俺も」
ディアッカの指摘に、ため息とともにこう言い返す。
「キラにとってカナードさん達がどれだけ安心を与えてくれる存在なのか、知っているつもりだったんだがな」
表情に出るとは、と続ける。
「それがわかっているだけでもいいと思うがね」
十年近く一緒にいてもわからなかった存在よりは、と背後から声がかけられた。
「……隊長……お願いですから、驚かさないでください」
思わず、イザークはラウに抗議の言葉を投げつけてしまう。
「何を言っているのかね? 誰かが近づく気配がわからない君達ではないだろう?」
だが、あっさりとそれはかわされてしまった。
「それよりも、だ。とりあえず、極力彼女の側に誰かがいるように。カガリ嬢は確かに強いが、あくまでも女性だからね」
アスランに不意をつかれては勝てるかどうかわからない。
だが、もう一人誰かいれば何とかなるのではないか。
「……わかりました」
確かに、今のアスランであれば何をしでかすかわからない。そう判断をしてイザークは頷く。
「いくら何でも、出撃命令まで無視しないと思いたいが」
深いため息とともにディアッカが言葉をはき出す。
「思い詰めている以上、あいつが何をしでかすか、わからないんだよな」
キラと話をするためならば、命令を無視するぐらい何でもない。そう言い出しそうだ。彼はそう言いきる。
「そこまでバカだとは思いたくないが……あり得ないとも言えないか」
今更そんな悪あがきをするのであれば、一緒にいたときに歩み寄る努力をすればいいだろうに、と思わずにはいられない。
「ともかく、キラを危険にさらすことだけは避けないといけないだろうな。それと、カガリ嬢も、だ」
実力はともかく、民間人である以上……とイザークは言う。
「民間人でも、カナードさんぐらい強ければ、話は別だが……まぁ、あの二人にあの人と同じレベルの実力があっても、戦闘には参加させたくないが」
そんなことをさせるぐらいなら、ムウをしごいた方がいいだろう……と続ける。
「確かに。でも、あの人も一応、ナチュラルだしな」
カガリと同じでコーディネイターに迫る身体能力を持っていても、とディアッカが言い返してきた。
「それに関しては、オーブが何かを考えているらしい。カナードとロンド・ギナが何かをするだろう。だから、必要なら、お前達が付き合ってやれ」
他のメンバーには任せられないだろうから、とラウは言う。
それは、彼らがカナード達と自分たちの関係を知らないからだ。
「わかりました」
何よりも、自分には異存がない。そう考えて頷く。
「後は、やはりアスランのことだろうね」
キラを傷つけずに全てを終わらせる方法はあるのだろうか。そう言って彼は考え込むような表情を作る。
「まったく……あいつも懲りればいいものを」
ディアッカが小さな声でそう言った。
「無理だろうね。懲りることを知っていれば、カナード達があそこまで拒絶する事はなかっただろうね」
そうなっていれば、現状は変わっていたのかもしれない。そうラウは続ける。
「だが、現状は違う。だから、いい加減、けりをつけないとね」
自分たちの幸せのために。そう言ってラウは唇の端を持ち上げた。
「ついでに、地球軍とブルーコスモスもたたきつぶせれば一番いいのだがね」
そこまで高望みはすまい。そう言う彼が内心ではその方策を探しているのは間違いないはずだ。そう、心の中で呟いたときだ。
「イザークさん! ディもちょっと来て」
キラが彼らの名を呼ぶ。
「姫君がお呼びだよ」
ラウがからかうように言ってくるのを耳に、イザークは立ち上がった。