星々の輝きを君に

BACK | NEXT | TOP

  95  



 ギナとカナードが戻ってきたのは、もうじき夜明け、という時刻だった。
「……これがオーブの新型、か」
 興味津々という表情でバルトフェルドが言う。
「とりあえず、こちらにはナチュラル用のOSの試作品を入れてある。お前が使え」
 それに直接言葉を返す代わりに、ギナはムウへとこんなセリフを投げつけた。
「俺?」
「カガリにさせるよりもよかろう」
 ニヤリ、と笑いながらギナが言い返す。
「カナードには、既にあれがあるしな」
 そうなると、適任はお前しかいない……と彼は続ける。
「……一応、俺は地球軍の捕虜、なんだけど」
 いいのか、とため息をつく。
「心配するな。既にそれは消してある」
 いや、そう言う問題じゃないだろう。そう言いたいが、ここで下手に反論をしても厄介なことになるだけだ。
「わかった。キラにさせるわけにもいかないしな」
 ただ、こっそりとだぞ……とムウは釘を刺しておく。
「それに関しては、それなりに融通を利かせるから構わないだろう」
 ニヤリ、と笑いながらラウが言う。その表情が怖い、と思ったのは自分だけではないはずだ。
「……お前のしごきはとりあえず遠慮したいかな?」
 本気でやられたら、キラ達のフォローが出来なくなる。それでは不安だ、と彼は主張した。
「あいつらが諦めたとは思えないからな」
 そう続ける。
「……確かに。ユウナ・ロマの方はともかく、アスランは諦めていないでしょう」
 ユウナはユウナで、別の何かを待っているようだ……とラウも頷く。
「とりあえず、引導を渡しますか?」
 キラが婚約をしたと、とカナードが問いかけてくる。
「いっそ、相手があれとは言わずに誤解をさせるのも楽しいかもしれないな」
 それだけならばまだしも、ギナがこう言って笑う。
「それについては後で考えるとして……とりあえず、キラに顔を見せてこい」
 彼の言葉を無視して、ムウはカナードへと声をかけた。
「心配していたからな」
 そう続ければ、彼は小さく頷いてみせる。相変わらず『キラ』の一言は彼を冷静に戻させる左様があるようだ。
「そう言えば、キラは?」
「とりあえず、イザークとカガリをつけて私の執務室だ」
 自分の部下も足を踏み入れているが、逆にその方が安全だろう。ラウはそう言った。
「アスランが来ても、すぐに対処できますからね」
 営巣を抜け出すのは難しいかもしれないが、と彼は続ける。
「不可能だといいたいが……何があるかわからないというのも事実だね」
 地球軍が接近してきた場合、営巣の見張りが手薄になるだろう。その隙に抜け出すことは不可の言うではないはずだ。
「こちらの余裕も、さほどあるわけではないしね」
 作戦の最中にあれこれされるくらいなら、今のうちに再起不能にしてしまった方がいい。バルトフェルドはそこまで言い切る。
「確かに」
 だが、それはムウも同意見だ。
 作戦中に味方に馬鹿な行動を取られることほど厄介なことはない。それがその本人だけのことなら放っておくが、味方全体まで及ぶことが多いのだ。
 そうなるくらいなら、アスラン一人を再起不能にした方がいい。
「まぁ、それはお姫様に顔を見せてからでもいいかな?」
 カナードもその方が安心して話を出来るだろう? とバルトフェルドは笑う。
「そう言えば、おやつがどうのこうの、という話になっていたぞ」
 ふっと思い出した、というようにムウが言った。
「……多分、それは俺じゃなくてラウ兄さんに言っているんだと思いますよ」
 食べたい、と言っていたから……と彼は言い返してくる。その瞬間、名指しされた当人が複雑な表情を作った。キラにそう言われたのは嬉しいが、今の自分のイメージを考えると……と考えているのだろう。
「全部が片づいたら、作ってやればいい。その間に練習をするならすればいいだろう?」
 それくらいの間であれば、キラだって待ってくれるのではないか。ラウはそう言って笑う。
「そうですね」
 ラウが珍しく素直に頷く。その事実が怖いと思ってはいけないのだろうか。ムウはふっとそんなことを考えていた。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝