星々の輝きを君に
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ギナとカナードが戻ってきたのは、もうじき夜明け、という時刻だった。
「……これがオーブの新型、か」
興味津々という表情でバルトフェルドが言う。
「とりあえず、こちらにはナチュラル用のOSの試作品を入れてある。お前が使え」
それに直接言葉を返す代わりに、ギナはムウへとこんなセリフを投げつけた。
「俺?」
「カガリにさせるよりもよかろう」
ニヤリ、と笑いながらギナが言い返す。
「カナードには、既にあれがあるしな」
そうなると、適任はお前しかいない……と彼は続ける。
「……一応、俺は地球軍の捕虜、なんだけど」
いいのか、とため息をつく。
「心配するな。既にそれは消してある」
いや、そう言う問題じゃないだろう。そう言いたいが、ここで下手に反論をしても厄介なことになるだけだ。
「わかった。キラにさせるわけにもいかないしな」
ただ、こっそりとだぞ……とムウは釘を刺しておく。
「それに関しては、それなりに融通を利かせるから構わないだろう」
ニヤリ、と笑いながらラウが言う。その表情が怖い、と思ったのは自分だけではないはずだ。
「……お前のしごきはとりあえず遠慮したいかな?」
本気でやられたら、キラ達のフォローが出来なくなる。それでは不安だ、と彼は主張した。
「あいつらが諦めたとは思えないからな」
そう続ける。
「……確かに。ユウナ・ロマの方はともかく、アスランは諦めていないでしょう」
ユウナはユウナで、別の何かを待っているようだ……とラウも頷く。
「とりあえず、引導を渡しますか?」
キラが婚約をしたと、とカナードが問いかけてくる。
「いっそ、相手があれとは言わずに誤解をさせるのも楽しいかもしれないな」
それだけならばまだしも、ギナがこう言って笑う。
「それについては後で考えるとして……とりあえず、キラに顔を見せてこい」
彼の言葉を無視して、ムウはカナードへと声をかけた。
「心配していたからな」
そう続ければ、彼は小さく頷いてみせる。相変わらず『キラ』の一言は彼を冷静に戻させる左様があるようだ。
「そう言えば、キラは?」
「とりあえず、イザークとカガリをつけて私の執務室だ」
自分の部下も足を踏み入れているが、逆にその方が安全だろう。ラウはそう言った。
「アスランが来ても、すぐに対処できますからね」
営巣を抜け出すのは難しいかもしれないが、と彼は続ける。
「不可能だといいたいが……何があるかわからないというのも事実だね」
地球軍が接近してきた場合、営巣の見張りが手薄になるだろう。その隙に抜け出すことは不可の言うではないはずだ。
「こちらの余裕も、さほどあるわけではないしね」
作戦の最中にあれこれされるくらいなら、今のうちに再起不能にしてしまった方がいい。バルトフェルドはそこまで言い切る。
「確かに」
だが、それはムウも同意見だ。
作戦中に味方に馬鹿な行動を取られることほど厄介なことはない。それがその本人だけのことなら放っておくが、味方全体まで及ぶことが多いのだ。
そうなるくらいなら、アスラン一人を再起不能にした方がいい。
「まぁ、それはお姫様に顔を見せてからでもいいかな?」
カナードもその方が安心して話を出来るだろう? とバルトフェルドは笑う。
「そう言えば、おやつがどうのこうの、という話になっていたぞ」
ふっと思い出した、というようにムウが言った。
「……多分、それは俺じゃなくてラウ兄さんに言っているんだと思いますよ」
食べたい、と言っていたから……と彼は言い返してくる。その瞬間、名指しされた当人が複雑な表情を作った。キラにそう言われたのは嬉しいが、今の自分のイメージを考えると……と考えているのだろう。
「全部が片づいたら、作ってやればいい。その間に練習をするならすればいいだろう?」
それくらいの間であれば、キラだって待ってくれるのではないか。ラウはそう言って笑う。
「そうですね」
ラウが珍しく素直に頷く。その事実が怖いと思ってはいけないのだろうか。ムウはふっとそんなことを考えていた。