星々の輝きを君に

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「あきれたものだね、アスラン」
 ラウは足元に転がされている彼を見下ろしながらそう言った。
「隊長!」
 即座に彼は反論をしてくる。だが、それをラウは無視した。
「申し訳なかったね」
 苦笑と共にカガリ達へと視線を向ける。
「いや、想像はしてたから」
 そうすれば、彼女は即座にこう言い返してきた。
「って言うか、こいつ、全然成長してないだろう、頭の中身」
 さらにこう付け加える。
「……そうなのか?」
 彼女のその言葉にバルトフェルドが聞き返した。
「昔からそうですよ。カナード兄さんの方が詳しいと思いますけど、キラに『会えない』時には、必ず窓から侵入を試みようとしたそうです」
 だから、キラの部屋はそうできないように工夫されていたはずだ。もっとも、それでもあきらめないのがアスランだが、とカガリは付け加える。
「おかげで、キラは何度、迷惑を被ったことか」
 課題の最中に連れ出されたり、朝が早いとわかっている日に夜遅くまで連れ回されたり……と指折り数えながら言う彼女の記憶力の方にラウは感心してしまう。
「キラが『今日はダメ』といっても聞く耳もたなかったそうだし」
 その言葉に、ラウは顔をしかめる。
「それって何? キラちゃんを所有物扱いしていたわけ?」
 それじゃ、嫌われて当然よね……とアイシャが言い切った。
「……そんなつもりは、ない……」
 床の上からアスランがそう言ってくる。
「俺は、あいつのために……」
「それで? その後、お前のせいでつぶれた時間を埋め合わせるためにキラがどれだけ苦労したと思うんだ?」
 そのせいで、親族の重要な集まりにでられなかったこともあるのだ、とカガリは続けた。
「おかげで、あの子は一時期、監視をつけられそうになったんだぞ」
 カナード達がきっちりとキラの周囲を見張るということで、辛うじてそれは避けられたが、と彼女はアスランをにらみつける。
「お前は、兄さん達の言葉にも耳を貸さなかったそうだな」
 その結果、キラを拉致するという事件を起こしてくれた。
「あれが、ようやく収まっていたあいつのトラウマをまた呼び起こしてくれることになったし……本当に、ろくでもないことしかしてくれないよ」
 何よりも、と彼女はアスランの背中を踏みつけながら言葉を重ねる。
「そんなこと! 俺は知らない」
 キラのことで自分が知らないことはなかったはずなのに、と彼は叫んだ。
「お前が、キラの何を知っているんだ?」
 逆にカガリは冷静な口調で言い返す。
「お前が知っている《キラ》は、お前の都合のいい幻想キラだろう?」
 きっぱりと言い切った彼女に、アスランは怒りを顕わにする。
「お前に言われるいわれはない!」
「本当にそうか?」
 アスランの反論をカガリはあっさりと切り捨てた。
「キラに会いに行った際、どれだけお前に邪魔されたか、ここで言ってやろうか?」
 さらに彼女はこう付け加える。
「私は性別を隠していなかったにもかかわらず、お前は本気でケンカを売ってくれたしな」
 カナードから話だけは聞いていた。しかし、当事者からの話を聞くとまた別の意味であきれたくなる。
「……アスハ嬢はナチュラルでしたよね?」
 とりあえず、まだ、自分たちの関係をアスランに知られるわけにはいかない。そう判断をしてラウはこう問いかけた。
「あぁ。なのに、こいつは手加減なんてしてくれなかったがな」
 その言葉を耳にした瞬間、別の場所から殺気が向けられる。
「とりあえず、カナード君達が帰ってくるまで、彼は拘束しておこう」
 バルトフェルドが苦笑と共に口を開く。
「お手数をおかけします」
 とりあえず、ということでラウはこう言葉を返した。


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最遊釈厄伝