星々の輝きを君に
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屋上からキラ達の部屋の位置を確認する。
「あまり時間はかけられないな」
どうしたって、こんなことをすれば目立つ。当然、制止の人間が来るはずだ。
その連中に押さえられる前に、部屋の中へと入り込まなければいけない。
「それに関しては、大丈夫だろうが……」
問題は、中にも誰かを配置されていたときだろう。
「キラの前で手荒なことは出来るだけ避けたいんだがな」
話をさせてもらえない以上、仕方がない。そういうと同時にロープを手にする。
「しかし、アカデミーで学んだことがこんなところで役立つとはな」
十分に自分の体重を支えられると判断したところで、そのまま、床を蹴る。体が一瞬、宙に浮かぶが、すぐに足の裏へ壁の感触が伝わってきた。
それを繰り返して目的の階まで降りていく。
こっそりと中の様子を確認すれば、部屋の隅でパソコンをいじっているらしいキラの姿が確認できた。
「やっぱり、ここにいたね」
もちろん、中にいるのは彼女だけではない。他にもバルトフェルド隊に所属しているらしい女性の姿が確認できた。女性の護衛には女性をつけてくれる程度の配慮を彼もしてくれているらしい。
もっとも、アスランからすれば当然のことだ。
「あいつに、下手な虫を近づけてたまるか」
キラは自分だけを見てくれればいい。妥協して家族は認めなければいけないのだろうが、それでも、他の男は近づけたくない。それがカナード達でも、だ。
もちろん、それがキラには受け入れられないことだ、ということもわかっている。
でも、自分がキラを思う気持ちは彼らにだって負けてはいない。いや、それ以上だと思っている。
彼女がそれを理解してくれさえすれば、全ては解決するはずだ。
だから、と思いながら、とりあえず窓をノックしてみる。
自分の姿を見れば、キラは必ずここを開けてくれるはず、とアスランは信じていた。
耳に届いた音に視線を向ける。そうすれば、特徴的な紫紺の髪が窓の端で揺れているのが確認できた。ここからは見えないが、この髪の持ち主はきっとエメラルドグリーンの瞳をしているはずだ。
「……ここまで予想通りの行動を取ってくれるとは思わなかった」
正攻法がダメならば、と考えたのだろうが……とため息が出てしまう。
どうしようか、と窓からは見えない場所に座っている相手に視線を向ける。そうすれば、相手は小さく頷いて見せた。
「まったく」
どうしてこうなんだろう。
そう思いながら立ち上がる。
出来るだけ、相手と直接目を合わせないように窓の近くまで移動した。そして、ロックを外す。
当然のようにアスランは室内へと体を滑り込ませてきた。
「キラ!」
だけではなく、彼は自分に抱きついてこようとしてくる。
「誰が、キラだ!」
反射的にこう叫ぶと、彼女は想いきり相手を殴りつけた。アスランの勢いもあったから、その破壊力は相当だったではないか。
「……しまったな……せめて、手袋をしておくべきだった」
痛い、と呟く。
「大丈夫か、カガリ」
その呟きが耳に届いたのだろう。ムウが心配そうな表情で近づいてきた。
「だから、蹴りにしておけ、と言っただろう?」
さらに彼はこう付け加える。
「そんな余裕なかった」
ぼそり、とカガリはこう言い返した。
「それに、こいつはきちんとのしたんだから、いいじゃないですか」
何よりも、と彼女は続ける。
「蹴りを入れていたら、なんて言うか……股間を狙いそうだったんだよ!」
この言葉を耳にした瞬間、流石のムウもいやそうな表情を作った。やはり、男にとって股間への攻撃は死活問題なのだろうか。そう思わずにはいられない。
「……まぁ、とりあえず縛り上げて、虎さんか、ディアッカ達の隊長さんの所へ突き出すか」
「その必要はないわよ。今、二人とも来るって」
だから、拘束だけしておいてくれる? とアイシャが微笑みながら口にする。
「了解。力仕事はやっぱり、男の役目だよな」
それにしても、とムウは忌々しそうに続けた。
「キラ、キラといっているわりに、変装したカガリとあいつの区別が付かないとはな」
本当にアスランは《キラ》が好きなのか? と彼は問いかけてくる。
「さぁ。ひょっとしたら、キラちゃんを好きな自分が好きなのかもしれないわよ?」
たまたま、相手が《キラ》だったのではないか。アイシャはそう告げる。
その指摘は正しいのではないか。
「ともかく、さっさと縛り上げてくださいよ。私は、いつもの恰好に戻ります」
キラならばこの服も似合うだろうが、自分はもっと動きやすい方がいい。そう言ってカガリは笑った。