星々の輝きを君に
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「まさか、あそこで隊長にバラされるとはな」
ため息とともにディアッカはそう呟く。
「もっとも、相手が誰かまではバラされていないだけ、ましなんじゃねぇ?」
相手はあのラウだ、と言ったのはミゲルだ。自分やその婚約者との関係を知らなければ、そうも言えるだろう。
しかし、彼は実はキラの兄で、自分のいとこなのだ。
だが、とディアッカはため息をつく。それだからこそ、どうして彼があの場でそんなことを言い出したのか、想像が付いてしまう。
あとで、あちらと話し合わないといけないか。
同時に、当然のようにこう考えてしまう自分に苦笑が浮かんでくる。
「でも、アスランがそれについて何も言わないとは思いませんでした」
ニコルもこう言ってため息をつく。
「だな」
仲間だと思っているなら――たとえ気に入らない相手でも――祝いの言葉の一つでも言うものではないか。
「まさか、相手が《彼女》だと気付いているわけじゃないよな?」
ミゲルが怖いセリフを口にしてくれる。
「それはないと思いますよ。知っていたら、別の意味で大騒ぎでしょう?」
絶対に邪魔をしようとするに決まっているではないか。ニコルがきっぱりと言い切った。
「……否定は出来ないな」
というよりも、確実にそうするだろう。その一点で三人は同意を見る。
「ということは……やっぱり、俺らのことに興味がないということか?」
「それよりも、どうやってキラさんに会おうか、そちらで頭の中がいっぱいなんじゃありませんか?」
絶対に許可が出ないことはわかっているだろうから、とニコルが言った。
「って言うか……絶対認められないって」
キラの最大のトラウマだぞ、とディアッカは言い返す。
「わかってるって。だから、それに関しては協力をするけどな」
作戦前だし、とミゲルはため息をつく。
「とりあえず、キラの側には最強のボディーガードが付いているけどさ……問題は、あれも一応女だってことだ」
自分のもう一人の従姉妹だが、とディアッカは苦笑を浮かべる。
「時間稼ぎは出来ると思うが、それでもな」
アスランは軍人だから、と彼は続けた。もちろん、カガリが負けると微塵も考えていない。ここ数日付き合わされた格闘技の訓練でそのことは身にしみている。それはイザークやバルトフェルドの部下達も同じはずだ。
それでも、彼女の動きはあくまでも正統派なのだ。その一点だけが不安だと言える。
「そう言うことなら、大丈夫か」
「だろう? キラには一応、非常ブザーを渡してある」
アスランを見掛けたら、遠慮なくならせ……とも言い含めてある、とディアッカは言った。
「本当は、ならないのが一番いいんだろうけどな」
それが、とミゲルが呟く。
「確かに」
アスランが諦めてくれるのが一番いい。だが、その確率は0%だ。
「そう言えば、イザークは?」
何故、この場にいないのか。ミゲルがそう問いかけてくる。
「隊長の所だ」
今頃、遊ばれているだろうな……とディアッカは遠い目をした。
「それは……ご苦労様だな」
状況が認識できたのだろう。ミゲルも同じような表情を作る。
「ということは、話題は当然、キラさんのことですよね?」
ただ一人、ニコルだけが不安そうな表情で言葉を綴り始めた。
「だろうな」
それ以外にはないだろう、とミゲルも頷く。
「アスランは妙なところできまじめですから、最初は許可を取り付けようとするはずです。そのために隊長の所に押しかけるでしょうね」
ここまで言われれば、彼が何を不安視しているのかわかってしまう。
その瞬間、ディアッカは無意識のうちに立ち上がっていた。
「お付き合いしますよ」
ニコルも言葉とともに腰を浮かせる。
「さて……アスランの奴はどこにいるかな」
もちろん、ミゲルもだ。そのまま三人は、部屋をあとにした。