星々の輝きを君に
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地上部隊の軍服の中で一際目立つ《紅》が確認できる。
「どうやら、二人とも元気だったようだね」
そう言って、ラウは笑った。しかも、どうやらかなりしごかれたのか、表情が引き締まっている。
これは、カナード達に感謝すべきか。それともバルトフェルドか。
あるいは、キラの影響かもしれない。
どちらにしろ、彼らのプライドがよい方向へと成長している事は間違いないだろう。
「守るべきものをきちんと認識できたから、かもしれないね」
敵と味方。言葉にすれば簡単なそれも、現実はそう簡単に振り分けることが出来ない。
だが、守るべき存在は絶対だ。
それさえきちんと認識できれば、世界はそう難しくはない。
彼らも、それを実感したのではないか。
そうなると、問題はやはり彼と言うことになる。
「なんて言うか……あいつら、面構え変わった?」
二人の顔を見て同じ事を考えたのか。ミゲルがこう言っているのが聞こえた。
「そうですね。ずいぶんと引き締まったように見えます」
かといって、ぎらついているわけでもない。逆に落ちつきがでているように感じられる、といったのはニコルだ。やはり人間観察という点では、彼が一番かもしれない。
「……そうか?」
ただ一人、彼だけがイザーク達の変化に気付いていないようだ。いや、気付く前に、彼らが変わったのかどうかすら認識できていないのかもしれない。要するに、彼にとってあの二人も目の前にいるだけの存在だった、ということだろう。
ゲームのモブキャラと同レベルで他人を見る。それがどのようなことなのか、彼には理解できていないのではないか。
そんな人々の中で、キラだけは認識できたのかもしれない。
だから、彼はあの子に執着をしているのか……と推測をする。
しかし、だ。
それとあの子を彼に渡すこととは別問題だ。
自分たちと同等かそれ以上に《キラ》を大切に思い、守りきれる存在。それがあの子の側に近づける最低限の条件だ、とラウは考えている。
血筋という点を割り引いても、ディアッカ達エルスマン家のメンバーは申し分ない。だが、それとあの子の《夫》として認めるには不十分なのだ。
だが、他にいい人材が見つからなければ妥協するしかないか。そう考えていたときに、カナードがイザークを見つけてきた。その日からこっそりと観察をしてきたが、自分的にはとりあえず及第点を与えていいと思う。
婚約の話が向こうから出てきた、ということはカガリはともかくサハクの双子は認めたと言うことではないか。
「君が割り込むすきまはもうないと言うことだよ」
アスラン・ザラ、と心の中だけで付け加える。
「ということで、やはり、再会は派手に祝うべきだろうね」
ふっと笑いながら彼はこういった。
もちろん、周囲の者達はそれを望まないだろう。しかし、どうせならあれこれと一括で終わらせてしまう方がいいのではないか。
「幸いなことに、ここにはカナードだけではなく、あの男とカガリもいるからね」
本人達が耳にすれば、間違いなく「ありがた迷惑だ!」といいそうなセリフを彼は口にする。
その時だ。彼らの耳に下船の許可が下りる。
「さて、行こうか」
立ち上がりながら、彼は部下達に声をかけた。
「はい」
三者三様の表情で彼らは頷いてみせる。
それを確認して、ラウはさっさと歩き出した。
ハッチから顔を出せば、即座に敬礼が返される。もっとも、その中でただ一人、バルトフェルドだけは楽しげな視線を向けてきたが。
「とりあえず、当面はよろしく、か?」
その表情のまま、歩み寄ったラウに向かって言葉を投げかけてくる。
「そうですね」
言葉とともに笑みを返す。
「うちの部下達がご迷惑をかけませんでしたか?」
「いや。なかなかしごきがいがあったよ」
楽しませて貰った、という彼は、やはり侮れない。ギナやムウと同じ人種なのだろう。だから、自分とはどこか相容れないのか……と心の中で呟く。
しかし、今はそんなことを言っていられない。
「作戦終了までよろしく」
そう続ければ、彼も頷いて見せた。
そのまま、ラウは視線をイザーク達へと向ける。
「そう言えば、婚約が整ったそうだね。おめでとう」
微笑みながらこう告げた。その瞬間、 周囲で多くの者達が凍り付く。一部の例外の中にアスランの姿があったことに、ラウは微かに眉根を寄せていた。