星々の輝きを君に
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輸送艇がゆっくりと降下してくる。
「……アスランが来たな」
小さな声で、イザークはそう告げた。
「来なくてよかったんだがな」
ディアッカがため息とともに言い返してくる。
「まったく……キラがいやがってこもっちまったじゃねぇか」
おかげで朝の挨拶も出来なかった、と彼は本気で悔しそうに続けた。
「ディアッカ?」
「いいだろう。あいつを保護してからずっと、朝の挨拶をして貰ってたんだから……ないと物足りないんだよな」
確かに、それに関しては否定できない。
毎朝見ていた彼女の笑顔を今日は見ていないと言うだけで、なんか、物足りないのだ。
それどころか、やる気が削がれるような気もする。もっとも、そんなことをバルトフェルド達の前で言ったならば怒鳴られるかもしれないが、と心の中で付け加えた。
「だが、キラに無理を強いるわけにもいかないだろう」
「確かに」
来ると聞いただけであれほどまでに恐怖心を示すくらいだ。本人の顔を見ればどうなるか。
それでも、顔を見に行けば笑ってくれるだろう。
だが、それは無理しているとわかる笑顔ではないか。それでは意味がないのだと心の中で付け加える。
自分が見たい彼女の笑みはそれではないのだ。
「さて……どこでばらす?」
ふっと思いついたようにディアッカがこう問いかけてくる。
「……いつがいいだろうな」
キラの方の体勢は万全だと言っていい。あとはこちらの問題だろう。しかし、ニコル達と話をしておいた方がいいのではないか。
「とりあえず、ニコルとミゲルをこちら側に引き込まないといけないだろう」
でなければ、アスランを見張っていられないのではないか。言外にそう告げれば、ディアッカもすぐに「そうだな」と同意の言葉を口にする。
その間にも輸送艇は近づいてきていた。どうやら着陸態勢に入っているらしい。
「アスラン以外の連中には会えるのは楽しみなんだが……隊長は微妙かな?」
さりげなく付け加えられた一言は、彼の正体を思い出したからだろう。
「むしろ隊長の方が気が楽だろう?」
キラの話をすればいいだけだ、とイザークは言い返す。
「そうだけどな……絶対、遊ばれるぞ」
色々な意味で、とディアッカは口にした。
「……諦めるしかないだろう、それは」
カナード達にも遊ばれているのだ。今更だろう、と思う。
「まぁ、な」
ディアッカが頷くと同時に、輸送艇が着陸をする。
「さて、気を引き締めないとな」
それを確認して、ディアッカが呟く。
「あぁ、わかっている」
キラ達を守らなければいけないのはアスランからだけではない。こちらに向かってきているであろう地球軍からも、だ。
そのためにも、まずはアスランを何とかしなければいけないだろう。
無意識に襟元を探りながらイザークは心の中でそう呟く。
「……さて、久々のご対面だ」
どうなっている事やら、とディアッカが楽しげな口調で言った。それはきっと、自分を鼓舞するためのものだろう。
「安心しろ。地上での戦闘に関していれば、俺たちに一日の長がある」
カナード達にしごかれたしな、とイザークは笑った。
「……まぁ、それはあまり威張れないと思うがな」
いいように手玉に取られているんだから、とディアッカは口にする。
「まぁ、幸いなことに人身御供はいるから、あれを差し出すというのも手だな」
それはちょっと酷かもしれない。しかし、それ以上に我が身がかわいいというのは事実だ。
「連中だって、明日は我が身だ」
それどころか、バルトフェルドとラウも加わるのではないか。
そう考えた瞬間、別の意味でため息が出てしまう。おそらく、しばらくは立ち上がれないほどしごかれるはずだ。
だからといって、気を抜くことは出来ない。
アスランのキラに対する執着は、話を聞くだけでも常軌を逸している。どれだけ隊直を搾り取られたとしても、あの男はキラに会おうとあがくはずだ。
「……キラに近づけるものか」
イザークはこう呟いていた。