星々の輝きを君に
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砂漠の中の街が次第に大きくなっていく。
「あそこにキラがいるのか」
あの殺風景な場所は彼女に似合わない。それでも、今は妥協するしかないのだろうか。
「……とりあえず、話をしないとね」
二人だけで、と小さな声でアスランは付け加える。
「そうすれば、お前だって、自分が誤解していることがわかるはずだ」
あの時のことも含めて、とアスランは呟く。
「傍で話をしないから、きっとすれ違ったんだよな」
彼らも邪魔してくれたし、と続けた。だから、キラは自分から離れていこうとしたのではないか。
いや、それ以前に自分に隠し事なんてしようとしなかったに決まっている。
あのころのキラにとって――いや、今もだろうか――カナードの指示は絶対だった。だから、全ては彼が自分を疎んじてのことなのかもしれない。
それはきっと、自分が彼らの間に割ってはいろうとしたからだろう。
でも、それは当然のことではないか。
「兄妹だって、いつまでも一緒にはいられないんだ」
だから、彼の指示に従わなくてもいい。
そのことをまず、彼女には理解してもらわないといけないのではないか。そうすれば、きっと、キラは目を覚ましてくれるはずだ。
「大丈夫だよ、キラ」
キラさえその気ならば、自分が何とでもしてみせる。そう言ってアスランは笑う。
ラクスのことだって、彼女の協力があればどうにでも出来る。
「間違っていると認識すればいいだけだから」
小さな笑いと共にそう呟く。その表情から自分の言葉がどれだけ独善的はものか、アスランだけが気付いていなかった。
彼は声を潜めていたつもりなのだろう。しかし、それはニコルとミゲルの耳には、しっかりと届いていた。
「……あの人は……」
複雑な表情でニコルは呟く。
「ますます悪化しているな」
さて、どうするか……とミゲルが囁いてきた。
「あの二人が婚約したことを、彼は知らないんですよね?」
そう言えば、とニコルは確認する。
「……誰も話してないだろう?」
自分は話した記憶がない、とミゲルは言い返してきた。
「僕だってしていませんよ」
いやそうな表情でニコルも言葉を口にする。
ということは、現地で初めて知ると言うことか。その瞬間、彼がどのような行動を取るのか。考えたくない。
それでも、とニコルはため息をつく。
「キラさんは守らないといけないんですよね」
アスランから、と彼は付け加えた。
「そうだな。彼女がイザークを選んだ以上、アスランの出番はないってことだよな」
むしろ、迷惑なだけだろう。しかし、そう言ってもアスランが聞き入れてくれるかどうかがわからない。
「あの人の場合、それも『間違っている』と言い出しそうですけど」
というよりも、彼の場合、キラが自分以外の《誰か》を優先するという事実が全て『間違っている』と認識するのだろう。
しかし、だ。
それならば、キラ自身の意志はどこに行ってしまうのだろうか。
彼女がアスランを拒むのにはそれなりの理由があるはず。それを理解しようとしなければ、いつまで経っても同じ事ではないか。どうして、アスランにはそれがわからないのだろう。
「……キラさんにとっての幸せが何であるのか。それを一番に考えれば、すぐわかることですのに」
もっとも、そんな言葉すら彼の耳には届かないのではないか。
「あいつは、一番優等生だと思っていたんだがな」
こんなに手がかかる奴だったとは思わなかった、とミゲルがため息をつく。
「僕もです」
ニコルも、それには頷くしかできなかった。