星々の輝きを君に
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そのころ、ザフトの監視衛星が想定外の地球軍の動きを見つけていた。
「……集結している?」
いったい、どこに向かおうとしているのか。その情報を受け取った軍人は表情を強ばらせる。
「とりあえず、報告だな」
上の判断を仰ごう。
もちろん、その間にも監視の目をゆるめるわけにはいかない。
同僚に視線を向ければ、彼は心得ているというように頷いてみせる。
それを確認して、彼は立ち上がった。
「何故ですか!」
アスランの声が室内に響き渡る。
「地球軍に不穏な動きが確認された。その目的が判明するまで、我々はここで待機。それのどこがおかしいのかね?」
ラウはそう言って彼を見つめた。
「なら、イザーク達は……」
「彼らは現在、バルトフェルド隊長の指揮下にある。あちらで『必要』といわれている以上、私が呼び戻さなければならない理由はないと思うが?」
違うのか? と逆に聞き返す。
「ですが!」
そう言いながら、アスランは次に口にすべき言葉を探しているようだ。
本当に困ったものだ、とラウは心の中で呟く。
彼が呼び戻したいのは彼らではない。一緒にいるであろう『キラ』だ。
「たとえ、彼らを呼び戻したとしても、現在、一緒にいるであろうキラ嬢はこちらには来ないぞ」
ため息とともに指摘の言葉を口にする。
「何故、ですか?」
予想通りと言っていいのだろうか。アスランは信じられないという表情を作る。
「彼女はディアッカが保護しているはずです」
それだけは覚えていたらしい。しかし、その裏に隠れている感情は別のものだろう。
「現在、オーブの首長家の方がバルトフェルド隊長の下にいらっしゃる。その方がキラ嬢を保護するとおっしゃっておられるそうだよ」
キラはオーブ籍の第一世代だ。そうである以上、おかしい申し出はないはず。言外にそう告げる。
「どこの方ですか?」
それは、と今までとは別の意味での焦りを彼は見せる。
「セイランではありませんよね?」
さらに彼はこう付け加えた。ということは、ユウナ・ロマのキラに対する言動を彼も知っていると言うことだろうか。
「……とりあえず、サハクとアスハと聞いているが?」
それがどうしたのか、と何でもないように問いかけた。
「サハクにアスハ、ですか」
少しだけ安心したような表情を作る。しかし、それはすぐに忌々しそうなものへと変わった。
「ならば、彼女はオーブに戻るのですか?」
「残念ながら、そこまでは聞いていないね」
彼女のプライベートだろう? と告げる。
「それに、我々には関係のないことだ」
彼女のことよりも優先すべき事があるだろう。そう続ける。
「……それは……」
違うと言いかけて、彼は言葉を飲み込む。そのあたりの判断はまだ出来るらしい。もっとも、そうでなければ早々に追い出すだけだが、と心の中で呟いた。
「わかったなら、戻りたまえ」
厳しい口調でラウはそう命じる。だが、アスランはすぐには動こうとしない。
「アスラン・ザラ?」
まだ何かあるのか、と問いかける。
「……いえ……失礼します」
不本意だ、と言う表情を隠さずに彼は頭を下げた。そのままきびすを返すと立ち去っていく。
「本当に困ったものだね」
その後ろ姿を見送りながらラウはため息をついた。
「彼の行動をもっとしっかりと見張っておかないといけないかもしれないね」
さて、どうするか。そう呟きながら、彼はまず、ミゲルを呼び出した。
「久しぶり」
そう言って、目の前の相手は小さく笑う。
「……ラスティ?」
生きてたのか、お前……とディアッカは思わず呟いてしまった。
「とりあえずは……でも、こんなだけどな」
腕がうまく動かない、と彼は続ける。おそらく、けがをした場所のせいだろう……とも彼は付け加えた。
「あの人達が拾ってくれなかったら、本気でやばかったけどな」
苦笑とともに告げられた言葉に、ディアッカはとりあえずうなずき返す。
「まぁ、生きているなら何とでもなるって」
他の連中も喜ぶに決まっているが……と彼は続けた。
「……ところで、お前だけ?」
「イザークは本命のところ。まぁ、応援中だけどな」
だから、邪魔するなよ……と告げれば、彼はうなずく。
「後で紹介してくれよ?」
その言葉にディアッカは笑みを深めた。