星々の輝きを君に
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事前に話が通っていたのか。談話室代わりに使われているリビングには、人影はなかった。その事実に、イザークはほっと安堵のため息をつく。
「お茶、淹れますね」
それをどう受け止めたのか。キラはそう言って備え付けの簡易キッチンへと向かう。
彼女のその行動を止めようとして、イザークはやめた。
「……まずは、俺が落ち着かないと」
でなければ、失敗をしてしまう。
もちろん、一度や二度断られたぐらいで諦めるつもりはない。しかし、時間がないのだ。
だからといって、あれを理由にするつもりはない。
「キラが好きなのは、俺の本心だからな」
彼女が欲しい、ということもだ。
「せっかく、許可が出たんだ。頑張らないといけないか」
こう言って、自分に活を入れたときである。
「お待たせしました」
言葉とともに彼女が戻ってきた。その手にはティーセットを乗せたお盆がある。
「重くないか?」
それを受け取ろうとイザークは腰を浮かせた。
「大丈夫です」
このくらいなら、とキラは笑い返す。
「そうか?」
「そうですよ」
料理を載せるともっと重くなることもあるんだし、といいながら、彼女はそれをテーブルの上に置く。
「茶は俺が淹れよう」
たまには、と言いながら、イザークはそれらに手を伸ばす。
「そう言えば、イザークさんはお好きなんでしたっけ」
紅茶、と口にしながら、彼女は素直に任せてくれた。
「ディアッカからか?」
「あと、兄さんから」
そう言われて納得する。彼ならば知っていて当然だろう。
「……あの人の方が手慣れていたがな」
本当に何でもそつなくこなす人だ、とイザークは手を動かしながら口にする。
「ムウ兄さんが何もしない人だから、その分、カナード兄さんとラウ兄さんが動くようになっただけだってそう言っていた」
自分はそのころはまだ、小さかったから……とキラは教えてくれた。
「そうか」
つまり《エンデュミオンの鷹》というのはそう言う人物なのか、とイザークは心の中で呟く。
「うん。でも、一番一緒に遊んでくれたよ」
離れ離れになるまでは、と彼女は笑った。
「一番年が離れているから、お兄ちゃんと言うよりはお父さんみたいだったけど……でも、そう言うと落ちこむから」
この言葉に、イザークは苦笑を浮かべる。
「まぁ、それは当然だな」
そのころであれば、まだ二十代にもなっていないはずだ。それなのに『お父さん』と呼ばれては、と頷いてみせる。
「しかし、それだけお前は彼らに愛されていたんだな」
唇から言葉が滑り落ちた。
「だと嬉しいな」
自分も彼らは大好きだから、とキラは満面の笑みを浮かべる。
「……うらやましいな」
それは、と呟く。
「イザークさん?」
「気持ちだけならば、俺も負けていないつもりだが」
言葉とともにそっと彼女に紅茶が入ったカップを差し出す。
「……あの」
しかし、キラはそれに気付いていない。
「イザーク、さん?」
うっすらと頬を染めながら彼女は真っ直ぐにイザークを見つめてくる。
「俺はお前を愛している。できれば、ずっと一緒にいて欲しいと思う」
キラが認めてくれるなら、と告げる声がじぶんのものではないように感じられるのはどうしてだろうか。
「イザークさん、それって……」
キラの言葉にイザークは微笑む。
「プロポーズの言葉は、もっと別のものを考えていたんだがな」
返事は急がない。そう言いつつも、すこしでも早く聞きたいと思う矛盾はどうしてなのか。イザークは心の中でそう呟いていた。