星々の輝きを君に
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アイシャとお茶をするのが完全に日課になりつつある。それはいいのだが、その前に繰り広げられる着せ替えタイムは遠慮したいな、とキラは心の中で呟く。
「……やっぱり、こっちね」
もっとも、アイシャが聞く耳を持ってくれないのだが……と小さなため息をついた。
「というわけで、今日はこれにしてね?」
にっこりと微笑みながら彼女は白いワンピースを差し出してくる。
「それは、先ほど着たのの中にありませんでしたよね?」
「あら。細かいことは気にしないのがルールよ」
誰のか、といいたい。しかし、それについては聞かない方が身のためだ……と言うことをキラは経験から知っていた。
「それに、せっかくアンディ達が戻ってくるんだもの。可愛い恰好をしないとね」
アイシャは笑みを深めるとこう言ってくる。
「帰ってくるのですか?」
ということは、無事に作戦が終了したと言うことだろうか。しかし、ディアッカやイザーク達はともかく、あちらにいたカナード達の身柄はどうなっているのだろう。
「大丈夫よ。キラちゃんの大切な人たちはみんな無事だから」
そんな彼女の気持ちを読み取ったのか。アイシャが笑みを深める。
「でも、流石に無罪放免って言うわけにはいかないから、ちょっと待ってね」
建前だとしても、と彼女は続けた。
「わかっています」
カガリはともかく、他の二人はザフトと戦ってきた人間だから、とキラは頷く。
「いいこね。大丈夫。傷、一つつけないわ」
だから、笑って出迎えて上げて、と彼女は言う。
「はい」
カナードも、帰ってくるときにはいつも同じようなことを頼んできたし……と思いながら頷いてみせる。
「後は……何が必要かしらね」
そう言いながら、アイシャはキラの腕にワンピースを押しつけた。
「アイシャさん、僕も……」
「キラちゃんは着替えたら、そのまま待機よ」
せっかくのワンピースを汚したらもったいないでしょう? と彼女は言う。
「だから、今日の所は大人しくしていて」
何よりも、と言いながら、アイシャはキラの髪を撫でてくれる。
「今回の一番の功労者はキラちゃんだもの。だから、座っていていいの」
そう言われても、と思う。しかし、アイシャはそれ以上、キラと話をする気はないようだ。さっさと立ち上がってしまう。
「ということで、キラちゃんを見張っていてね」
しかも、ソウキスまで巻き込んでくれる。
「わかりました」
それだけならばまだしも、彼もあっさりと頷いて見せたのは何故なのか。
「ということだからね。頑張って着飾ってね」
それに満足そうに微笑むと、部屋を出て行った。
「……僕だって、何かしたいのに」
みんなのために、とキラは呟く。
「姫はそこにいらっしゃるだけでよろしいのではないですか?」
それに、彼はこう言い返してくる。
「僕が、それじゃいやなの」
自分だけ、ただ待っているのは……とキラは口にした。
「それならば、私の話し相手をして貰おうか」
その時だ。いきなり窓の外から声が響いてくる。しかし、キラはもちろん、ソウキスも身構えることはしない。
「ギナ様。お願いですから、驚かさないでください」
こう言いながら、窓に歩み寄っていく。
「何。今後の事で話し合う必要があるだろうと思っただけだ」
キラが開けると同時に、彼は体を滑り込ませてくる。
「それよりも着替えるなら、早々に着替えるがいい。それまではあれと打ち合わせをしておく」
言葉とともに、彼はキラの頭を軽く撫でた。そのまま、ソウキスの方へと歩いていく。
「……お一人ですか?」
「あちらは今、カナードの傍だ」
一応、ストッパーだ……とギナは言う。
「必要ないと思いますが」
カガリがいるから、カナードは無理をしないはず。それよりも、ギナの方が必要なのではないか……とキラは心の中で呟く。
「気にしなくていい」
くくっと笑う彼に、これ以上の反論を諦める。ため息とともにキラは着替えることにした。