星々の輝きを君に
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どうやら、自分たちの会話はばれていないらしい。しかし、いい加減、この茶番劇にもあきてきたな、とカナードは思う。
「さて、どうするかな」
カガリを連れてでていくだけならば簡単だ。しかし、それではムウの安全が保証されない。
自分たちが全員、幸せになるのが彼女たちの願いだった。その中には、もちろん、最年長の彼も含まれている。
そのために取れる選択肢は何だろう。
「オーブに戻れれば、一番いいのだろうが」
現状では、それは難しい。
ザフトに降伏してしまえば、手っ取り早いのは事実だが……と眉根を寄せる。ここにはギナがいるのだ。彼はキラと同じくらいムウが気に入っている。だから、嫌がらずに骨を折ってくれるのではないか。
それに、と続ける。
この地を治めているバルトフェルドに対する評価は意外といいらしい。
確かに、彼もザフトの隊長でコーディネイターだ。
それでも、街にいるナチュラル達はそれなりに彼を受け入れているように見える。とりあえず、圧政はされていないようだ。もちろん、彼らがザフトに逆らわなければの話だろうが。
しかし、あれよりはましだ、と思う。
ナチュラルは自分たちよりも劣っている存在だ。だから、軽んじても構わない。
そう考えているプラントの指導者をカナードは知っていた。
「キラがいれば、な」
彼女を巻き込むのは不本意だが、一番有効な手段を執ってくれることも否定できない。
それに、とため息をつきたくなる。
彼女のことだ。あちらでも大人しくしているはずがない。自分たちと連絡を取っていることがその証拠ではないか。
「仕方がない。メールを出すか」
あれも来ると言うことを考えれば、すこしでも早く合流しておきたい。
「一応、手は打ったがな」
自分の勝手な判断かもしれないが、と付け加える。
それでも、あれならば当面、キラを預けておいても構わないだろう。
少なくとも、アスランとキラを直接会わせない口実にはなってくれるはずだ。
その間に、キラにこちらの動きを止めるウィルスでも作らせるか。
「それが一番手っ取り早いかもしれんな」
誰も傷つかないだろうし、と彼は呟く。
「問題は、時間だな」
できれば、アスランが地球に到着するまでに終わらせてしまいたい、とは思う。
「無理なときには、あの人に頑張って貰おうか」
責任者としての役目だろう、と呟く。
「ということで、キラに連絡だな」
ついでに、イザークがどのような行動を取ったのかも報告させた方がいいだろうか。しかし、と珍しくも彼にしてはすぐに判断をすることが出来なかった。
「キラが、どうかしたのですか?」
外から戻ってきたカガリがこう問いかけてくる。その手に食料があるところから判断をして、食堂に行っていたのだろう。
「いい加減、この状況にもあきたからな。あいつに協力して貰って、現状を何とかしようと思っただけだ」
キラの得意技を使えば、ムウへ疑いの視線を向ける人間は少ないだろう。
「……ウィルス?」
「そんなところだ」
ニヤリ、とカナードは笑った。
「あれもそろそろきちんと医師に診せておいた方が良さそうだし」
未だに痛みを訴えるのは、何か治療を間違えた可能性がある。あるいはナチュラル用の薬が体に合わなかったか、だ。
「お前も、その方が楽しめるぞ」
色々な意味で、と付け加える。
「キラの回りの害虫退治とかな」
「あぁ、それは楽しいかもしれない」
きっと、彼女の脳裏にいるのはユウナ・ロマの方だろう。別に、それは構わないのではないか。
「だろう?」
色々と楽しいだろうな、とカナードは言い返す。
同時に、彼女が《アスラン・ザラ》の顔を見た瞬間、どのような行動を取るか。それは見物かもしれない。
たとえ彼女がやりすぎたとしても、女性である以上、アスランが悪いという結論になるのではないか。まして、彼女はナチュラルだし、とも。
「というわけで、さっさとあちらに合流しよう」
この言葉と共に彼は笑みを深めた。