星々の輝きを君に
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本当に、アイシャは楽しげだ。
「……それでも平気なのは……やっぱり、兄さん達でなれているから、かな?」
カナードのイヤミでもめげないのだから、そう言った意味では感心すべきなのだろうか。
しかし、カガリは『あいつはそのあたりの神経が綺麗さっぱり抜け落ちているだけだ』と言っていたし、とも悩む。
「まさかと思うけど、アイシャさんが女性だから、という理由じゃないよね」
ユウナがあのように強い態度に出ているのは、とキラは首をかしげる。だが、それに対する答えは返ってこない。ソウキス達は、そのような判断をすることを制限されているのだ。
「後で、ギナ様か兄さん達に聞いてみよう」
あの二人であれば知っているのではないか。そう心の中で呟いたときである。
『あの子には縁談が進んでいるからね』
「はぁっ?」
ユウナの言葉に、思わず変な声が飛び出してしまう。
「僕、そんな話し、聞いてないよ!」
第一、どうして自分の結婚話をセイランが進めるのか。アスハであればまだ妥協するが、と付け加える。
「……ミナ様も、そのようなことはおっしゃっておられなかったかと」
彼が口を開いた。
「少なくとも、ギナ様がこちらにおいでになるまでそのような話はでていなかったと思います」
彼が嘘を言うはずがない。
「だよね。それならば、すぐに連絡が来るはずだし」
どこにいようと、自分にメールが届かないはずがない。親しい者達はそれを知っているはずだ。
しかし、それもなかった。
ということは、セイランの独断なのだろうか。
『あら。あの子のご両親からは、何も聞いていないわよ?』
即座にアイシャが言葉を返している。
『あの子のお兄さんが迎えに来るまでは、ここで預かっていて欲しい。そうも言われたわ』
ここにはディアッカもいるし、と彼女は付け加えた。
『いったい、どこで話が変わったのかしら?』
きちんと説明をしてくれる? とアイシャは笑みを浮かべる。それがラウが見せる笑みに似ているような気がするのは錯覚だろうか。
だとするなら、間違いなく要注意だ。
しかし、ユウナはそれをわかっていない。
『当たり前だろう? 今、父上が彼らに話している頃だし……第一、彼らが拒むわけないからね』
満面の笑みと共に彼は言い返している。
『コーディネイターのあいつを欲しがる物好きがそういるわけないし』
ここでそう言うセリフを言うか?
怒りよりもあきれたくなってしまう。
『あら。残念だけど、ここだけでも片手の数以上の人間がいるわね』
さらりと言い返す。
『オーブからプラントへの移住も難しくないもの。キラちゃんの場合、ご親戚がいるから、なおさらだわ』
自分の狭い世界だけで物事を言わないで欲しいわね、とアイシャは吐き捨てるように告げる。
『何を!』
即座にユウナが相手を怒鳴りつけようとした。
『ここがどこだか、もう忘れたの?』
坊や、とアイシャはさらに笑みを深める。
『そんな場所で、どれだけ馬鹿なことを言っているのか、理解できないのかしら?』
ここまで言われても、彼にはすぐに理解できなかったようだ。必死に首をひねっている。
『そこまでバカだったとは……セイランの次代は別の人間に任せた方がいいかもしれんな』
しかし、彼もまた、気配を消すのが日常になっているのだろうか。それとも、わざとか――あるいは、ユウナが鈍いだけかもしれない――と言いたくなるタイミングでギナが姿を見せた。
『ここはオーブでも大西洋連合でもなく、ザフトの支配地域だぞ? そんな場所で戯言を言うとは……よっぽど死にたいらしいな』
ここは戦場だから、誰も文句は言えないだろうが……と彼は続けながらユウナの隣に腰を下ろす。
『申し訳ない。これがバカを言ったようだ』
すぐに連れ帰る、とギナはアイシャへと頭を下げた。その様子が信じられないのか、ユウナが目を丸くしている。
『その前に、ここでしなければならない事がある。付き合って貰おうか』
死刑宣告の方がまだ優しいのではないか。そんな声音で、ギナが宣告をする。その瞬間、ユウナがどのような表情を見せたか。言わなくてもわかるのではないか。
ただ、キラが無意識にそれをアップにしていたことだへ間違えようのない事実だった。