星々の輝きを君に
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そんなのんびりとした空気も、報告一つであっさりと打ち壊されてしまう。
「アンディ達が出かけるとすぐにね」
予想はしていたが、まさかここまで想定通りとは思わなかった……と彼女はため息をつく。
「……あの人ですか?」
不安を隠せない、という様子でキラは問いかける。
「だそうよ」
敵地に本名で乗り込んでくるのはほめて上げるけど、彼女は笑う。その表情が怖い。
「アイシャ様」
そんな彼女にソウキスが呼びかける。
「何?」
「ギナ様に連絡を取る許可を」
そうすれば、彼があれを回収してくれるかもしれない。そう続ける。
「なるほど、ね。なら、勝手にやってくれてもいいのに」
ギナに連絡を取るくらい、と彼女は微笑む。
「そういうわけにはいきません。ここの指揮官はバルトフェルド隊長です。あの方がいらっしゃらない今はアイシャ様だと認識しております」
許可を取るのは当然のことだ、と彼は言い返す。
「すみません、アイシャさん。彼にとってはこれが普通なので」
鬱陶しいかもしれないが、とキラは口にする。
「別に鬱陶しいとは思わないわ。ただ、ここまできちんとしてくれるメンバーがうちにはいないだけ」
本当に、バルトフェルドの悪いところだけ真似をして、と彼女はため息をついてみせた。
「とりあえず、ロンド・ギナ・サハクが来てくれるなら、その方が話が早いから、お願いするわ」
その間、ちょっと八つ当たりしても構わないだろう。彼女はそう言って笑った。
「どこまで我慢できるか。楽しみだわ」
さらにこんな言葉を重ねるあたり、何か鬱憤がたまっていたのだろうか。それも自分たちのことで、とキラは呟く。
「馬鹿なことは考えなくていいのよ。キラちゃん達のことはまったく関係ないから」
鬱憤を貯めてくれるのはブルーコスモスだし、とアイシャは言い返してくる。
「だから、ある意味『飛んで火に入る夏の虫』って所ね」
楽しみだわ、と彼女は笑った。
ということは、本気でユウナをいじめにかかるつもりなのだろう。
「……姫」
「たまにはいいんじゃないかな?」
自分の希望が通らない場所があると自覚するのも、とキラは乾いた笑いと共に告げた。
「心配なら、早めにギナ様に引き取ってもらうしかないと思う」
そうすれば、少なくともアイシャにいじめられることは避けられるだろう……と続けた。
「ですが、そちらの方があの方には耐え難いのではないでしょうか」
彼がそう問いかけてくる。
「でも、ギナ様はサハクの方だし……何よりも、男性だよ?」
ユウナの気持ちとしてはどちらがましか。そう考えれば答えが出てくるのではないか。キラはそう言い返す。
「ミナ様は、サハクの当主だし、女性でも別だろうね」
セイランの跡取りとはいえ、ユウナが文句を言えるはずがない。そう続ける。
「わかりました。そう言うことでしたら、構わないでしょう」
こう言うと、彼はポケットから発信機らしきものを取り出す。そして、その中央にあるスイッチを押した。
「これでギナ様に連絡が行ったはずです」
後は、と彼は続ける。
「隠れましょう」
自分たちは、と口にしながら、手を差し出してきた。
「そうだね」
ギナが来るまでは隠れていた方がいいか。そう言い返すとキラは彼の手に自分のそれを重ねた。