星々の輝きを君に
58
ロンド・ギナ・サハク。
サハク家当主の一人、といっても、彼が表に出てくることはあまりない。だから、ここまで彼が双子の姉であるロンド・ミナ・サハクとそっくりだとは思わなかった。
そんなことを考えながら、優雅な仕草でコーヒーを飲んでいる彼を見つめる。
「どうして、ギナ様が?」
彼の隣に座っているキラがこんな問いかけを口にした。
「バカを連れ戻しに、な」
ニヤリ、と笑う表情の影にどこか狂気が潜んでいるような気がする。それが厄介だと思うのは自分だけではないだろう。
「……バカ?」
しかし、キラはそれを気にする様子はない。あるいは、彼もキラにだけはそのような姿を見せないようにしているのか。
「まさか……」
「安心して構わない。カガリ・ユラでもカナードでもない」
あれだ、と彼は吐き捨てるように告げる。
「……あの人、ですか?」
自分たちにはわからないが、キラにはそれだけで十分だったらしい。表情を強ばらせながら言葉を返した。
「心配しするでない。そのために私が来たのだ」
可愛いお前を危険にさらすような真似はしない、とギナは優しい笑みと共に告げる。
「カガリ・ユラの傍にはカナードがいる。それこそ、あれには何も出来ぬであろうよ」
カナードの報復を受けても平然としていられたのは、プラントのバカだけだ。彼はそうも付け加えた。それが誰のことを指しているのか、イザークにもわかってしまう。
「こちらにはエルスマンの息子がおる。だから、今しばらく、お前にはここにいて貰った方がいいな」
オーブにもコバエが飛んできているから。そうも彼は言う。
「……清浄な空気でしか生きられないコバエか?」
彼のその表現が気に入ったのだろうか。バルトフェルドが笑いながら問いかけてきた。
「そうだ。うるさくて構わないから、いずれ、我らは宇宙にあがろうかとも考えている」
準備ができ次第、とギナは答えた。
「もっとも、その前にカナード達には帰ってきてもらわなければいけないがな」
でなければ、キラが安心できないだろう。そう言って彼は笑みを深める。
「ギナ様」
「大丈夫。ミナも同じ考えだ」
だから、自分が無理を言っているわけではない。そう言いながら、ロンド・ギナは意味ありげな視線をイザークへと向けて来た。
「それらもこれからは戦場に出のだろう?」
軍人である以上、と彼は続ける。
「まぁ、仕方がないね。でも、姫君のことなら心配いらないよ」
とりあえず、アイシャがそばにいるから……とバルトフェルドは笑った。
「だが、その人物もキラの側だけにいられるわけではあるまい?」
本当は、自分が傍にいたいところだ。しかし、それではザフトの迷惑になるだけではなく、キラの居場所が連中にばれることにもなる。それは不本意だ、と彼はため息をつく。
「ということで、私の部下を一人、置いていきたいが、構わないか?」
君達の邪魔はさせない。キラの護衛だけをさせる、と彼は続ける。
「それについては構わないが……悪いが、そちらとの連絡は制限させてもらうよ?」
「別にかまわん。人形かなんかだと思って貰えばいい」
この一言に誰もが顔をしかめる。
「ギナ様?」
「あれらは、キラも知っているだろう? 一人、置いていく」
本人の希望だから安心しろ、と彼はキラの髪を撫でた。
「……ですが……」
それでは、ギナはどうするのか。キラの表情がそう問いかけている。
「後一人、連れてきてある。最後の一人は、ミナの傍にいるしな」
だから、心配はいらない。ギナはそう言い返した。
「……それもそうですけど……でも、僕よりもギナさまの方が人手がいるのではありませんか?」
「そのために、ウズミからキサカを借りてきている。あれがこの地の知り合いに声をかけているそうだ」
協力が得られそうだからな、と彼は笑う。
「だから、お前は素直に守られておいで」
この言葉にキラは小さく頷いてみせる。どうやら、渋々ながらも納得したらしい。
しかし、どうして彼女がここまで拒むのか。その理由がわからなかった。