星々の輝きを君に
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バルトフェルドが案内をしてくれたのは、広場の端にあるカフェテリアだった。
「ここのケバブが一番おいしくてね。時々、無性に食べたくなるんだよ」
そう言いながら、彼は二人分の料理を軽々と運んでくる。その後ろには同じように二人分の料理を手にしたディアッカがいる。
「やっぱり、僕も行けばよかったかも」
キラがこう言いながら、彼らの手からお皿を受け取っていた。
「気にするなって。これからも動き回るんだし、体力温存しとけって」
ディアッカが笑いながら彼女に言葉を返している。
「まぁ、お前一人ぐらいなら、背負ったところで負担にはならんが」
彼がキラを甘やかすのは、兄としての気遣いに近い。それはわかっていても、微妙に気に入らないのは、まだ、自分には手放しで甘えてくれないからか。
それは当然だとわかっていても、やはり気に入らない。
一番気に入らないのは、こういう事を考えてしまう自分だろうか。
「……でも、僕、重いですよ?」
首をかしげながら、キラはこう言ってくる。
「お前はもう少し重くてもいい」
だから、気にするな……とイザークは笑って見せた。
「そうそう。彼は男の子だからね。君を背負っていてもフルマラソンぐらいは走れるよ」
楽しげな口調でバルトフェルドがこういう。
「それよりも、これは熱い方がうまいんだ。お薦めはヨーグルトソースだな」
この白い方だ、と付け加えながら、彼はキラにそれを手渡す。
「……チリソースじゃないんですか?」
それにキラはこう言い返した。
「僕の知り合いがそう言っていましたけど」
彼女はそう付け加える。
「その人物は、本当においしいケバブを食べたことがないのだよ。まぁ、騙されたと思って、今日はヨーグルトソースにしておきたまえ」
ここまで言われては従わざるを得ないのだろう。キラは素直に自分の分のケバブにヨーグルトソースをかけている。
「はい、イザークさん」
そのまま、それをイザークの方へとさしだしてきた。
「ありがとう」
自分を優先してくれた、と言うことだけで機嫌が浮上するあたり、自分も単純かもしれない。それでも嬉しいと思えるのは嘘ではないのだ。
「いや、微笑ましいね」
バルトフェルドがこう言ってくる。
「まぁ、こいつらはこれでいいと思いますよ」
だが、ディアッカのセリフは許せない。だから、と思いきり彼の脚を蹴飛ばしていた。
ある意味、和やかな雰囲気のまま食事を進めていたときだ。
視界の隅で何かが光をはじいた。
「清浄なる蒼き世界のために!」
聞きたくない叫びが耳に届く。
「キラ!」
とっさに彼女の体を腕の中に囲い込む。そして、自分の体を盾にするように位置を変えた。
バルトフェルドとディアッカも同時に動いている。
近くのテーブルを倒して障壁を作った。そして、それぞれが銃を構える。
「この場合、ねらいはやはり俺かな?」
銃弾が空気を切り裂く音が耳に届いた。
「その可能性が一番高いとは思いますが」
キラを一番安全と思える場所に移動させる。そして、イザークもまた銃を取り出した。
「もっとも、別の理由の可能性もありますね」
ディアッカがこう言い返している。
「不本意ですけど、俺もこいつも、最高評議会議員の息子ですからね」
それだけではないのではないか。ふっとそんな予感がイザークの脳裏をよぎる。
ひょっとしたら、自分たちではなく別の《誰か》が狙われているのかもしれない。
しかし、それに該当するのはここでは一人だけだ。
だが、その理由がわからない。
わからないからと言って、彼女を渡せるわけがない。
「ともかく、何とかここから脱出しないと」
それについては、後でディアッカを問いつめればいい。それよりも、と思いながらイザークはそう言う。
「後少し踏ん張れば、増援が来ると思うんだけどね」
うちの部下達は無能ではない、とバルトフェルドが口にする。
「わかっています」
イザークがそう言い返したときだ。腕の中でキラが身じろぐ。
「どうした?」
とっさにこう問いかけた。
「あそこ!」
彼女がある方向を指さす。イザークがそちらに視線を向けようとした瞬間だ。彼らの前に黒い壁が現れる。
「……ギナ様?」
それが誰かが身につけているマントだ、と認識すると同時に、キラがこう呟いたのが聞こえた。