星々の輝きを君に
56
バナディーヤの街は予想以上に活気に満たされていた。
それでも、平和とは言い難いのだろう。人々の眼差しの奥には暗い影が見え隠れしている。
それはどうしてなのだろう。そう考えてもすぐに答えは出せない。その材料を自分は持っていないのだ。
そんなことを考えていたときだ。
「……とりあえず、一休みするか?」
昼食の時間も近いし、とイザークが提案をしてくる。
「僕は、まだ、大丈夫ですけど?」
早めに買い物を終わらせて基地に戻った方がいいのではないか。そう考えながらキラは口にする。
「いいから、いいから。疲れる前に休むのも、疲労を溜めないこつだよ」
くつくつと笑いながら、バルトフェルドがキラの肩に手を置いた。
「それに、この近くにお薦めの店があるんだ。今ならすいているからね」
いわゆる地元の体臭料理だが、是非食べて欲しい。そう彼は続ける。
「……まぁ、君達の口には合わないかもしれないがね。それでも、この地の文化の一つだからね」
そういうものを経験するのも、プラントの人間には必要なことではないか。彼の言葉は正論だろう。
「わかりました」
自分ではなく二人のため、というのであれば納得するしかない。
そう判断をしてキラは頷いて見せた。
「悪いね」
言葉とともに、バルトフェルドはキラの髪を撫でてくれる。その手の感触が父や兄たちに似ているような気がした。
「君達も構わないね?」
そのまま、彼は視線をイザーク達へと向ける。
「キラが構わないのでしたら、自分たちに文句はありません」
「まぁ、そういうのもいい経験でしょうし」
二人は即座にこう言い返した。
「いいこ達だ」
満足そうにバルトフェルドは頷いて見せる。
「ということで、こちらだよ」
笑顔と共に彼は歩き出す。その彼の手は今でもキラの頭の上にあったから、当然のようにキラも彼の隣を歩くことになった。
その後を、イザークとディアッカが着いてくる。
キラにはわからないが、おそらく、バルトフェルドの護衛も一緒に移動しているのではないだろうか。
間違いなく目立っているだろう一団なのに、誰も気にする様子を見せない。
あるいは、これがここでは日常なのかもしれない……と心の中で呟く。
そのまま、さりげなく周囲を見回したときだ。
「……あれ?」
一瞬、視界の隅を見覚えのある人影がかすめたような気がした。慌てて視線を戻すが、既にその人影は人混みの中に消えている。
「気のせい、だったのかな?」
キラはそう呟く。
「どうかしたのか?」
即座にバルトフェルドが問いかけてきた。
「知人を見掛けたような気がしたのですが……」
確認できなかったので、はっきりと断定は出来ない……とキラは続ける。
「誰だ?」
ディアッカが即座に声をかけてきた。
「お前の知り合い、って事は……オーブの人間だろう?」
さらに彼はこう付け加える。
「うん。多分、二人」
「誰だ? 俺も知っている人か?」
さらに問いかけの言葉を投げかけられた。
「キサカさん。カガリのことで連絡が行ったなら、おかしくはないからいいんだけど……」
問題はもう一人の方だ。
「あと……サハクのどちらかも……」
地元の人間であってくれればいいが。キラはそう言ってため息をつく。
「サハクのって……」
何かいやなものを思い出したのだろうか。ディアッカは頬をひきつらせている。
「それについては、後で誰かに確認させよう」
それよりも、食事だ。バルトフェルドがこう言って二人の背中を叩く。
「そうだな。食事は大切だろう」
イザークもそんな彼に同意をするように言葉を唇に乗せる。そして、そのまま微笑んで見せた。