星々の輝きを君に
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目の前には何故か、色とりどりの服が広げられている。
「あ、あの……」
もちろんこれらは自分のものではない。ということは、目の前にいる女性の私物なのではないか。だとするなら、サイズが違いすぎるような気がする、とキラは焦る。
「ダメよ。女の子なんだから、遠慮なんかしちゃ」
だが、相手は気にする様子を見せない。
「これなんか、どう?」
遠慮していると判断されたのか。逆に服を選ばれてしまうほどだ。
「ダメね。目の色が映えないわ」
だが、彼女的に気に入らなかったのか。それはすぐに脇に移動してしまう。
「どちらかというと、はっきりした色の方が良さそうね」
なら、こちらからしら……と口にしながら、彼女は別の一枚を取り上げる。そして、それをキラにあわせるように下げた。
「とりあえずはこんな所ね。後でちゃんと買いに行きましょう」
一番似合う服を、と彼女はさらに笑みを深める。
「そこまでして頂くわけには……」
慌てたようにキラは言葉を口にした。
「いいのよ。たまには可愛い女の子用の買い物をしたいわ。ここにいるのは、みんなむさ苦しい男ばかりなんですもの」
しかも、軍服以外滅多に着てくれないから楽しめないのだ。そう言って彼女は笑う。
ひょっとして、自分は着せ替え人形なのか。
というよりも、ここでもそうなのか……とため息が出てしまった。
「それに、お金のことなら心配しなくていいの。男の子二人が責任を持ってくれるそうだから」
そのくらいの甲斐性は見せてくれないとね、と彼女は付け加える。
「あの……アイシャ、さん?」
お金なら、自分で出す……とキラは言おうとした。一応、アルバイトで貯めたお金がそれなりにあるから、とも。
「いいの、いいの。男の子なら当然の事よ」
くすくすとアイシャか笑った。
「それよりも、お風呂に入って着替えていらっしゃい」
それだけでもさっぱりとするわよ、と付け加えながら、彼女はキラの腕に荷物を押しつける。
「難しいことはさっぱりとしてから考えましょう、ね?」
この言葉にキラは小さく頷く。
「お風呂はこっちよ」
そして、案内されるがままに移動を開始した。
そのころ、イザークとディアッカはバルトフェルドの元にいた。
「とりあえず、当面、君達は俺の指揮下に入ってもらう」
この言葉に二人は頷いてみせる。
命令である以上、それに従うのは当然のことだ。
それに、とイザークは心の中で呟く。アークエンジェルも近くに落ちているというのであれば、カナードと接触できるかもしれない。
彼と話が出来れば、キラにとって最善の選択肢が見つかるだろう。
もちろん、それがある意味、軍規違反だと言うこともわかってはいた。何と言っても、今は敵陣営にいるのだし、と考えるとため息も出てこない。
「後、お姫様の件だが」
さりげなく、彼は言葉を重ねた。
「当面は我々と同行してもらわなければいけないだろうね」
十分に配慮はするつもりだが、と彼は続ける。
「仕方がないでしょうね。うちの父にだけは連絡を取らせて頂けますか?」
キラに関するあれこれを押しつけるから、とディアッカは言外に付け加えつつ口を開く。
「もちろんだよ。もっとも、彼女一人ぐらいの生活費ぐらいは何とでも出来るがね」
出来なくても、アイシャがそうするだろう。彼はそう言って笑う。
「今も遊ばれているようだしね」
申し訳ないが、諦めて貰おうか。彼はそう続けた。
いったい、何をされているのだろう。そうかんがえると不安でしかない。
「あぁ、心配しなくていい。女性は着せ替えが好きだと言うだけだよ」
いくつになっても、とバルトフェルドは笑った。
「……それこそ、キラが苦手なことだな」
それでも、自分たちと引き離されないだけましか。彼は小声でそう付け加える。
「後心配なのは、オーブの動きだが……それこそ、親父経由だとタイムラグが大きすぎるんだよな」
いったい、何故、そんなことを言うのか。後で確認しないといけないだろう。イザークは心の中でそう呟いていた。