星々の輝きを君に
52
「お姫様と王子様候補と従者一人、ね」
三人の姿を認めた瞬間、迎えに来たらしい隊の隊長がこんなセリフを口にしてくれる。
「……従者って、やっぱり俺か?」
思わずディアッカはこう問いかけてしまう。
「キラが《姫》というのは間違っていないがな」
イザークも《王子様》といわれてもおかしくはない外見をしている。もっとも、中身はといえば、ただのワガママ大王ではないか。
ただ、エザリアの教育のせいか、女性に対する言動はそう言われてもおかしくないものだ。特にキラに対するとそれはカナードをして『とりあえずの合格点』といわせるものだし、とは思う。
「とりあえず、移動するか。このまま、ここにキラを置いておくわけにゃいかねぇし」
従者でもいいよ、もう……と呟きながらディアッカは立ち上がる。
「キラ」
そのまま、奥でぐったりとしている彼女に声をかけた。いくらコーディネイターとはいえ、訓練をしていない体には衝撃が大きすぎたのか。体調が芳しくないらしい。
「迎えが来たから、移動をするぞ」
この言葉に、彼女は小さく頷いてみせる。まだ、意識ははっきりとしているらしい。それだけが安心材料かと思う。
「自力での移動は無理そうだね」
さて、どうしようか……と彼が言う。
だが、それについて考える必要はなかった。イザークがさっさと彼女の傍に歩み寄る。そして、その体を両手でしっかりと抱き抱えたのだ。
「……こいつをどこに連れて行けばいいのですか?」
そのまま、こう問いかける。
「とりあえず、レセップスの中に。ドクターも連れてきているからね。診察を受けて貰おう」
二人の機体はその後で移動して貰おう、と彼は笑った。
「……レセップス、というと……」
確か、彼の部隊の旗艦だったはず。そして、そこの隊長といえば、と記憶の中を探ればすぐに答えが出てきた。
「砂漠の虎……」
地上部隊にもかかわらず、宇宙にいる者達にもその名を知られている名将だが、その本名を思い出せない。
「バルトフェルド隊長」
だが、イザークの方はしっかりと思い出していたらしい。口に出している。
「おや。クルーゼ隊のオコサマでも俺の名は知っているのか」
にやり、と彼は笑う。しかし、その笑顔の裏に怒りに近い感情が見え隠れしている。
「何をやったんだよ、隊長は」
思わずこう呟いてしまった。
「俺に聞くな、俺に」
即座にイザークがこう言い返してくる。
それでも彼なら自分の希望を叶えるために何をしていてもおかしくはない。そう納得してしまう程度には彼のことを知っているつもりだ。
「まぁ、君達が悪いわけではないし、お姫様を守ろうとした心意気は気に入ったからね。いじめるのはやめておこう」
本当に、何をしたのか。そう思わずにはいられない。かといって、本人に確認するのはさらに怖い。
「あの男が君達のことを『頼む』と頭を下げただけでも気分がいいからね」
愛されているねぇ、君達……とバルトフェルドは続ける。彼がこれほどまでに部下思いだとは思わなかった、とも付け加えた。
いや、違う……とディアッカは心の中だけで呟く。
まぁ、自分は身内だから多少は心配してもらえているのかもしれない。
だが、今回、彼が心配していたのは、キラだろう。だからこそ、嫌いな相手でだろうとなんだろうと頭を下げたに決まっている。
それに関しては、別にどうとは思っていない。
むしろ、そうしない方がおかしいと思ってしまう。これはやっぱり、あのころの彼らを知っているからだろうな……と小さく苦笑を浮かべた。
「……ディ?」
それに気が付いたのだろう。キラが問いかけてくる。
「あの隊長も、保護した女性には優しいな、って思っただけだよ」
決して、自分たちを心配したわけではない……と言外に付け加えた。
「それでも、まぁ、怒られることはなさそうだな」
もっとも、キラの現状を知られたらどうなるか。それはわからないが……と視線だけで告げる。
「あの方は、守るべき対象には優しいからな」
イザークも苦笑と共に頷く。
「そう言うことだから、お前は大人しく運ばれていろ」
さらに彼はそう続ける。
「そうだな」
ディアッカもそれに同意をして見せた。
「確かに。そうしてくれると嬉しいね。できればすぐにでも移動を開始したい」
バルトフェルドが口を挟んでくる。
「地球軍の新型艦もこの近くに落ちてきたからな」
しかし、その後に続けられた言葉に、ディアッカは思わず頭を抱えたくなってしまう。あの二人が、絶対大人しくしているはずはない。自分たちがここにいる、と知ったらどのような行動に出るか。
「考えたくねぇ」
深いため息とともにこう呟いてしまった。