星々の輝きを君に
51
体が重い。
それはどうしてなのだろうか。
キラがその理由を考えようとしたときだ。
「キラ! 目を覚ませ!!」
耳元で誰かが呼びかけてくる。だが、それはカナードのものではない。しかし、よく知っている声だ。
いったい、誰の声だっただろうか。
そう考えると同時に、キラの意識は覚醒へと向かう。
重いまぶたを持ち上げると、紫紺の空に瞬く光が見えた。そして、それを受けて輝く白銀も、だ。一瞬月かと思ったそれは誰かの髪の毛だとわかる。同時に、自分に呼びかけていたのが誰の声なのか、思い出した。
「いざぁく、さん?」
呼びかけようと口に出した声は、じぶんのものとは思えないほど掠れている。
「無理はするな」
どこかほっとしたような表情で彼は注意をしてくる。
「それよりも、喉は渇いていないか?」
言われて、考えてみた。そうすれば、急に喉の渇きが襲ってくる。
「体を起こすぞ」
彼女の表情からそれを察したのか。イザークはこういった。同時に、彼の腕がキラの体を抱き起こす。
「最初は口の中を湿らせるだけにしておけ」
この言葉に、キラは小さく頷く。それを確認してからイザークは口元にストローを差し出してきた。言われたとおり、そこから一口だけ口の中に含む。
「気が付いたようだな」
イザークの背後から近づいてきた人影が誰のものであるか、確認しなくてもわかった。
「どうだった?」
振り向くことなくイザークが問いかける。
「まぁ、落っこちてきたわりには被害は少ない方じゃね? 動かせないが、とりあえず救難信号は出せるようだからな」
それに、いざというときには攻撃も出来るだろう。彼はそう言って笑った。
「その前に味方が拾いに来てくれるだろうけどさ」
さらにこう続ける。
「そうだな。キラ、吐き気はしないな?」
事実の確認だけ出来ればいい。そう考えていたのか。イザークはもうディアッカに興味がないという様子でキラにこう問いかけてくる。
「うん、大丈夫だけど……でも、何がどうなったの?」
ここ、地上だよね? と彼女は聞き返す。でなければ、あんな風に空は高くないし、星も瞬かないはずだ。
「簡単に言えば、落ちたんだよ」
即座にディアッカが答えを返してくれる。
「俺たちのミスでお前まで巻き込んでしまったのは悪かったけどな……妥協してくれ」
さらに彼はそう付け加えた。
「そうなのですか?」
確認を求めるようにイザークを見つめる。
「そう言うことだ。早々に離脱していればよかったのだが、戦功を焦ったからな」
すまない、と彼も口にした。
「……本当に?」
ひょっとして自分が原因だったのではないか。キラは言外にこう問いかける。
「本当だって」
信用しろ、とイザークは笑う。
「それよりも、もう一口、水を飲んでおけ。そうしたら、移動するぞ」
話をそらされたような気がするのは錯覚だろうか。
だが、こういう時の彼らは、きっと、問いかけても教えてくれないだろう。今の彼らはカナード達が自分には聞かせたくない会話をしているときと同じ表情を浮かべているのだ。
「……わかった」
仕方がない、と思いながら小さく頷く。
「そんな表情すんなって。下手なことを言って、あの人達にお仕置きされたくねぇんだよ、俺たちは」
ただでさえ、今回のミスがあるんだし……とディアッカは笑う。
「アスランなんて、カナードさんの邪魔をしたのか、しっかりといたぶられていたぞ」
ちらっと確認しただけだが、と彼は続けた。
「……撃墜されなかっただけ、ましか?」
「だろうな」
二人とも、彼とは同僚ではなかったのか。心の中でそう呟く。
「カナード兄さんも何をしているんだろう」
アスランは嫌いだ。それでも、死んで欲しくないとは思っているのに、とキラはため息をついた。
「だから、あの程度ですんでいるんだろう」
ついでに、これからラウのお小言が待っているのではないか。同席しなくてすんでよかったかもしれない。そう言う彼にキラは無意識に頷いていた。