星々の輝きを君に

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 ストライクに撃たれ、推進力を殺された。そのせいでニコルに回収されるという醜態をさらしてしまった。
 だが、それ以上に衝撃的だったのは、ヴェサリウスで耳にした言葉だった。
「地上に、落ちた?」
 イザーク達が、と思わず聞き返してしまう。
「えぇ。何でも、ガモフから射出された救命ポッドを保護したものの、重力圏に掴まってしまったとか」
 ニコルが申し訳なさそうな表情でそう言った。
「でも、あの二人が間に合ってくれてよかったです」
 ポッドだけでは大気圏に突入した際、燃え尽きていた可能性がある。だが、デュエルとバスターはそれぞれが単独で地球に降下できるシステムが組み込まれている。もちろん、ブリッツとバスターにもだ。
 あの二機が一緒であればポッドが危険にさらされることはないだろう。
 ニコルのその言葉は納得できる。
「……気に入らないがな」
 本当なら、その役目は自分がやりたかった。
 イージスの性能であればポッドの一さえわかれば間に合ったのではないか。
 それを邪魔してくれたのはカナードだ。
 いったい、どうして……と思う。
 彼が、キラを危険にさらすようなことはない。そう考えていた。
 あるいは、彼が邪魔したかったのは自分なのだろうか。それとも、イザーク達が彼女を保護するのをフォローするつもりだったのか。
 どちらにしても、彼が自分に銃口を向けたことだけは否定できない事実だ。
「仕方がないですね。全ては運です」
 ニコルがこう言い切る。
「キラさんのためには、最良の選択だったと思いますよ」
 最高ではないが、と彼は続けた。
「ニコル」
 何が言いたいのか、と言外に問いかけた。
「貴方は自分がしてきたことをもう一度よく考え直してみるべきですよ。ラクス様もそうおっしゃっておられましたし」
 彼は意味ありげな笑みと共にそう言い返してくる。しかし、それはアスランが求めていた答えではない。
「……ニコル」
 だが、これだけは言える。結局は彼も自分の味方ではない。
「とりあえず、後のことは彼らに任せるしかありません」
 自分たちは本国へ戻らなければいけないのだから、とニコルは言う。
「それも、気に入らないがな」
 今すぐにでもキラ達の傍に駆けつけたい。しかし、自分たちには帰還命令が出ている。それを無視することは、今の自分には出来ないのだ。
「……隊長さえ許可を与えてくだされば……」
 降りられたかもしれない。だが、彼は決して首を縦に振ってくれなかった。
「隊長は、いったい何を考えておられるんだ?」
 ふっとそんな疑問がわき上がってくる。
 一つ疑念が浮かんでくれば、他にも浮かび上がってくるのはどうしてなのか。
 ラウの一つ一つの行動も、自分とキラを邪魔しようとしているようにしか思えない。あるいは、それはあの日、キラが自分に対して恐怖を示したからかもしれない。それでも、と思ってしまうのだ。
「何が最良か。それを考えておられると思いますよ」
 ニコルはそう言ってくる。
「俺にはそうは思えないがな」
 ため息とともにアスランはこう言い返す。
「少なくとも、キラのことは……だ」
 直接話をする機会があれば、もっと別の選択肢があったはず。
 いや、それ以前に、彼女を連れてプラントへと戻っていれば、こんなことにはならなかったのではないか。
「そうでしょうか」
 ニコルが言葉とともに首をかしげる。
 その時だ。
『アスラン・ザラ、ニコル・アマルフィ。ブリッジへ』
 二人を呼ぶ艦内放送が耳に届く。
「行くか」
 面倒だが、と言外に滲ませながら、口にする。
「それがいいでしょうね」
 ニコルも頷く。それを合図に、二人は同時に床を蹴った。

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最遊釈厄伝