星々の輝きを君に
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イザークは口の中だけで小さく舌打ちをした。
やはり、地球軍の連中が邪魔をしてくれたせいでポッドを確保するタイミングが遅れた。どうしても重力圏から抜け出せない。
ならば、と思う。いっそこのまま地球に落下してあちらの同胞に拾って貰った方がいいのではないか。
「問題があるとすれば、ポットがどこまで耐えられるか、だな」
デュエルを盾にしても完全に熱や何かを遮断できるわけではない。
まして、キラは女性なのだ。
「それでも、それしか方法がないのであれば、仕方がない」
どちらがより安全か。
それを考えれば、選択肢は決まってくる。
「デュエルの背面にヒートシールドを展開すれば、ポッドへの被害はかなり押さえられるはずだ」
その分、自分への負担は大きくなるが、それがどうだというのか、と思う。
訓練を受けた自分が民間人である彼女を守るのは当然のことだ。好意を抱いている相手であればなおさらだろう。
『イザークさん』
不安なのだろうか。キラが呼びかけてくる。
「どうした?」
何も心配はいらない、と声音に含めながら聞き返す。
『無理をしているんじゃないですか?』
ポッドの中では、外部の情報を的確に把握することは出来ないはず。だが、伝わってくる振動や何かから的確な判断をしているようだ。
おそらく、それもカナード達の教育の成果なのだろう。
それは感嘆に値する。しかし、もう少し鈍くてもいいのに、とため息をつきたくなった。
「心配するな。戦場では普通のことだ」
それを隠して、イザークはそう言い返す。
「だから、お前は心配するな」
さらに言葉を重ねる。
『イザークさんがそう言うなら……でも、無理をしないでね?』
自分のために、と彼女は言う。
「お前のためだからだろうが!」
『イザークさん?』
キラの驚いたような声で始めてイザークは自分が何を口走ったのかが気が付いた。
「……それについても、後で、だ」
とりあえず、無事に生き延びることが出来てからだな、と心の中で呟く。
『……はい』
キラにしても、今はそんなときではないと考えていたのだろう。それでもためらいがあったのは、状況が完全に把握できていないからではないか。
無事に地上にたどり着いたら、きっちりと説明をしないといけないだろうな……と心の中で呟く。もっとも、自分が無事かどうか、それはわからないが。心の中でさらにこう付け加えたときだ。
『まったく、お前は……』
あきれたようなディアッカの声が通信機から響いてくる。
「ディアッカ?」
どこからと思えば、すぐ傍にバスターの存在が確認できた。
『先に俺が降りる。お前はキラを連れて背後に回れ』
その方がキラへの危険はもちろん、自分たちに対するそれも軽減されるはずだ。彼はそう言う。
「お前まで付き合うことはないんだぞ?」
確かに、そうしてもらえればありがたいが、とは思いつつもイザークはこう言い返した。
『それで、あの人達に半殺しにされろと?』
即座にディアッカはこう言い返してくる。
『その位なら、地上に落ちた方がマシだな』
ラウとカナードの怒りを買うなら、確かにその方がマシかもしれない。イザークもそれに関しては納得だ。
「物好きだな、お前も」
それでも、戦場であれば多少のことは見逃してもらえるような気がする。そう思いながら言葉を返す。
『でなきゃ、お前と付き合ってられるか』
しかし、こう切り替えされるとは思わなかった。
「ディアッカ、貴様!」
『さっさと降下の準備をしろよ。キラを傷つけたら、二人とも次の日には病院送りだ』
イザークの怒声もなれている彼には何の降下もないらしい。笑いながらこう言い返される。
「わかっている!」
後で覚えていろ、と呟いた声は彼の耳に届いているだろうか。届いていなくても別に構わないが、と付け加えていた。