星々の輝きを君に
46
戦闘は唐突に始まった。
もっとも、そう思っていたのはキラだけかもしれない。
「とりあえず、ここは万が一のことがあっても最後まで持ちこたえられるような設計になっている」
だから安心しろ、と軍医が告げる。
「わかっています。みなさんを信じていますし」
そんな彼にキラは微笑み返した。
「そう言ってくれると嬉しいね。でも、万が一のためにノーマルスーツだけは着ていてくれるかな?」
彼の指示は当然のものだろう。
「はい」
だから、素直に指示されたとおりにノーマルスーツを身につける。
「それがすんだら、こちらを手伝ってくれるかな?」
重病人から救命ポッドに移動させたい、と軍医は声をかけてきた。
「あそこの方が衝撃には強いからね」
「わかりました」
襟元を確認しながら言い返す。
大丈夫だと判断をしてキラは体の向きを変えた。そして、軍医の元まで戻る。
「出来るだけ揺らさないようにね。重くはないと思うが」
「はい、大丈夫です」
そう言いながら、彼の手から患者の乗ったストレッチャーを受け取ろうとした。その時だ。
「あっ!」
艦が大きく揺れる。
とっさに、ストレッチャーに覆い被さるようにして怪我人がそこから落ちるのを防ぐ。
「大丈夫かね?」
振動を受け流した軍医が問いかけてくる。
「はい。大丈夫です」
しかし、とキラは顔をしかめた。艦内でこれだけ振動を感じたと言うことはかなり戦闘が激しいと言うことではないか。
「ともかく、急いで患者を移動しよう」
少しでも生存できる確率を上げたい。そう言う彼にキラは頷いてみせる。
そのまま、事前に教えられていた医療機器があるポッドへとストレッチャーを移動させていく。
「この手間がむだに終わってくれるといいのだが」
軍医がこう呟いているのが耳に届いた。
だが、その願いは叶わなかった。
艦内にけたたましい警報が鳴り響く。
「すぐにポッドに入りなさい」
軍医がそう告げる。
「先生は?」
「私は患者達と同じポッドに乗るよ。君は悪いが、そちらの一人乗りの方を使ってくれるかな?」
確かに、彼らのことを考えればその方がいいだろう。キラはそう判断をして頷いてみせる。そのまま、指示された方のポッドへと乗り込んだ。
「ハッチをきちんと閉めて起きなさい」
そんな彼女の背中に向かって、軍医はこう声をかけてくる。
「わかっています」
オーブ籍とはいえプラントで暮らしていたのだ。そのあたりのことはしっかりとたたき込まれている。それだけではなく、カナードにも必要と思われる事は教え込まれているのだ。
それでも、何事も過信してはいけない。
確実に一つ一つチェックをしながら進めていくべきだ、ということは上の二人からも言われている。
「大丈夫です。先生達も、ご自分のことを優先してください」
『わかっているよ』
この言葉に、キラは小さなため息をつく。そのまま、内壁へ背中を預ける。
「みんな、無事だといいんだけど」
戦場に《絶対》はないとわかっていても、そう呟かずにはいられない。親しい者達が戦っている以上、なおさらだ。
「大丈夫。絶対、みんなに会えるから」
自分に言い聞かせるように呟く。
その時だ。
衝撃が体を包む。
「……切り離された?」
そうしなければいけない状況だったのか。そうは思うが、今の自分には確認の方法がない。
「無事でいてください」
こう祈るしかできない自分が歯がゆいと思うキラだった。