星々の輝きを君に
44
一両日中にプラントからラクスを迎えに来るという。
「話をするなら、今しかないな」
彼女だけでも納得してくれれば、後々自分の希望を通しやすい。だから、と思いながら彼女の元へと足を向ける。
「ラクス・クライン。よろしいですか?」
礼儀として、端末から許可を求めた。
『あら、お珍しいですわね』
即座に中からあきれたような声が飛んでくる。いや、あきれているのとは微妙に違うのだろうか。どちらにしても、歓迎されているような雰囲気ではない。
「お話があるのですが、お時間をいただけますか?」
だからといって、引き下がるわけにはいかないのだ。
『ロックは開いております』
数秒の間をおいてラクスはこう言い返してきた。
「失礼します」
言葉とともに室内に踏み込む。
「オマエモナー」
その瞬間出迎えてくれたのは、ハロだ。それも、確か一番最初に送ったピンクのである。
「……元気そうだな……」
本当に、どうしてこんな風になったのか。そう思わずにはいられない。自分はそんなプログラムをした記憶はないのに、とも考えてしまう。
「ゲンキ、ゲンキ、ハロ、ゲンキ!」
低重力下で器用にはね回りながらピンクハロはこう叫ぶ。
「ピンクちゃん。わたくしはアスランとお話がありますから」
そう言いながら彼女は手を差し出す。そうすれば、素直にその手の中に収まった。
「いいこですね」
ふわりと微笑む彼女の表情は、PVやニュースでよく目にするものそのままだ。
しかし、あまりに普段の態度と変わらなくて、そのことに違和感を感じてしまう。それがどうしてなのか。その答えを探そうとする。
「それで、お話とは何でしょうか」
だが、それよりも先に彼女がこう問いかけてきた。
「お願いがあります」
優先しなければいけないのはそれよりもこれからの話だ。そう判断をしてアスランは口を開く。
「お願い、ですか?」
自分に出来ることだろうか。彼女は首をかしげながらそう告げる。
「婚約を解消して頂きたいのです」
ラクスの同意を得られれば可能だろう。アスランはそう続けた。
「出来ませんわ」
しかし、彼女はあっさりと拒否してくれる。
「ラクス・クライン!」
何故、と言外に問いかけた。
「わたくしたちの結婚は義務だからです」
権利ではないから、と彼女は厳しい口調で告げる。
「……確かに、婚姻統制で決められた関係です。しかし、それを拒否する自由はあるのではありませんか?」
実際、そうしている者達も多いではないか。
「貴方とわたくしが普通の家の出身であれば、それも可能でしたでしょう」
小さなため息とともにラクスは言葉を重ねる。
「ですが、わたくしたちの婚約はそれだけではありません。貴方はそのことをご存じだと思っておりましたのに」
「……意味がわかりませんが?」
少なくとも、自分は父から何も言われていない。彼が告げたのは『ラクス・クラインと婚約しろ』の一言だけだ。
「別に、わたくしと貴方だけでなくてもよかったのです。クラインとザラに別の子どもがいれば、ですが」
そうすれば、彼女は言葉を綴り出す。
「わたくしたちの結婚は、穏健派と強硬派の融合、という意味合いがあります。そうである以上、個人的な感情で婚約を破棄することは出来ません」
許されることではない、と言い切った。
「ですから、個人的にどう思おうと婚約を破棄することは出来ません」
プラントの国民のためにも、と言われても納得できるはずがない。
「私が必要としているのが貴方でなくても?」
「えぇ。わたくしたちは結婚し、次世代を残さなければいけません。それは権利ではなく義務です」
理解できない。アスランはそう思う。
しかし、彼女の同意がなければ自分がどれだけ訴えようと父が耳を貸してくれるはずがない。
いや、彼だけではない。
カナードも、自分の希望を受け入れてくれるはずがないだろう。
ではどうすればいのか。
考えても答えが見つからなかった。