星々の輝きを君に
42
カガリのその願いは無事に叶えられていた。
「ご無事で何よりです、ラクス嬢」
ポッドから姿を現した彼女に向かってラウがこう声をかけた。
「ありがとうございます。でも、あの艦に乗っていたオーブの方々が守ってくださいましたから何もありませんでしたわ」
今回のことをのぞいて、とラクスは微笑み返す。
おそらく、それはカナードのことだろう。二人の会話を聞きながらアスランは心の中でそう呟いていた。
「そうですか」
もちろん、ラウが彼のことを知っているはずがない。だからだろうか。いつもの口調でそう言っている。
「ともかく、詳しいお話は落ち着いた後、ということにいたしましょう」
疲れているだろうし、ここでは出来ない話もあるだろう……とラウは続けた。
「アスラン」
彼は視線をラクスから移動させると彼の名を呼ぶ。
「ラクス嬢を部屋へご案内してくれ。アデスが使っている部屋の隣を用意してある」
いったい、何故自分に……と思わず心の中で呟いてしまう。
「婚約者だろう、お前は」
あきれたように囁いてきたのはミゲルだ。
言われてみれば、そうだったかももしれない。しかし、と心の中で呟く。それは自分が望んだことではないのだ。
婚姻統制によって押しつけられた関係でしかない。
「どうかしたのかね、アスラン・ザラ?」
しかし、それが自分の行動を縛り付けてくれる。
「何でもありません、隊長」
ラウの指示は命令と同義だ。だから、無視するわけにはいかない。たとえ、自分がどう思っていようと、彼女がまだ、自分の婚約者だと言うことも、だ。
でも、絶対に彼女との婚約は解消してみせる。
そうすれば、キラに結婚を申し込んだとしても誰も何も言わないはずだ。もちろん、カナードもである。
三年前は失敗したが、今度はそんなことはしない。
あの時、自分はキラが女性だとは知らなかった。だから、ちょっと手荒なことをして彼女を恐がらせてしまったかもしれない。
でも、今度は失敗しない……と心の中で呟く。
そのためには、まずはラクスとの婚約を解消しなければいけないが……と小さなため息をつく。
「どうかなさいましたの、アスラン」
彼のそんな言動を不審に思ったのだろうか。ラクスが声をかけてくる。
「何でもありません」
ここ三年で身につけた笑みを浮かべながら言葉を返す。
「それよりも、こちらです」
ともかく、二人で話が出来る環境を作らなければいけない。そのためには、早々にここから移動しなければいけないだろう。
こう判断をして、こう告げる。
そのまま、何気なくきびすを返した。
「あら。手を繋いではくださいませんの?」
小さな笑いと共にラクスがこんな言葉を投げかけてくる。
「ラクス?」
「そうしてただけるものではありませんの?」
かわいらしい仕草で彼女は首をかしげて見せた。その瞬間、周囲からはやし立てるような声が上がる。
だが、そうすれば自分と彼女は本当に親しいと思われても仕方がない。
彼女が天然だと知っていたが、こんな時にまで発揮してくれなくていいのに、と思う。
「現在は勤務時間ですから」
公私混同は慎まなければいけない。言外にそう告げる。
「別に構わないだろう、その位」
「そうそう。ラクス様にケガをされるよりはましだ」
なのに、味方がしっかりと背中から打ってくれた。
「だそうですわ、アスラン」
そう言って微笑む。これが演技だったら、ものすごく怖いな。そう思わせるものがあった。
「……仕方がありません。どうぞ」
言葉とともに手を差し出す。その手に、彼女は当然のような表情で己の手を重ねてきた。