星々の輝きを君に

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 艦内が急に騒がしくなった。
「……何かあったな?」
 カナードが小さな声で呟く。
「兄さん……」
 不安そうな表情でカガリが呼びかけてくる。といっても、彼女が心配しているのは自分たちではなく彼女のことだろう。
「大丈夫だ」
 言葉と共にカナードは微笑みを浮かべる。
「お前ら二人ぐらい、俺一人でも守れる」
 もっとも、と少しだけ笑みの意味合いを変えた。
「お前が大人しく俺の言うことを聞いてくれれば、だがな」
 一人ならば、勝手に突っ走られてもフォローが出来るが、と続ける。
「……それは……」
「否定できないだろう?」
 にやりと笑いながら言い返す。
「でも、キラと一緒の時は大丈夫だったじゃないか」
 むっとした表情でカガリはこう主張する。
「当然だろう。あの子は俺がきちんと基本からたたき込んである」
 しかも、コーディネイターだからな……と続けた。自分の足手まといにならない程度のことは既に身につけてある。もっとも、自分たちレベルが判断基準になっているから、キラは自分が身につけているものがすごいとは認識していないが。
「お前も同じくらいたたき込んでやろうか?」
 無事に逃げられただなら、だが……と彼は続ける。
「いいです。今までの分で十分です」
 即座にカガリが言い返してきた。そんなに厳しくしてきたつもりはなかったのに、と思いながら『仕方がないな』と言い返す。
「ともかく、だ。こんな状況だ。お前も自分が何をすべきなのか、わかっているだろう?」
 違うのか、と告げれば彼女は渋々ながら頷いて見せた。
「わかっているなら、ちゃんと指示に従え」
 いいな、と付け加える。
「……はい」
 どこか渋々ながらも彼女は頷いて見せた。そう言うところが可愛いと言ってはいけないのだろうか。彼女以上にキラの方が可愛いのは言うまでもないことである。それは、一緒に過ごしていた時間の長さから生まれるものだろう。
 こんなことを考えていたときだ。
「失礼」
 言葉とともにムウが顔を出す。
「……悪いんだが、ちょっと付き合ってくれないか?」
 どこか他人行儀なのは、傍に別の誰かがいるからだろう。実際、彼の肩越しに柔らかなウェーブがかかった茶色の髪の女性の姿が確認できる。確か、それはこの艦の艦長だったはず。
 あの黒髪の相手を同行させなかったのはどちらの判断だろうか。
「事情ぐらい聞かせて頂きたいものですね」
 せめて判断するための剤行ぐらいもらいたいものだ、といい返す。
「俺は地球軍の人間ではありませんから」
 さらに付け加えたのは、もちろん皮肉だ。それがわかっているのだろう。ムウは苦笑を浮かべるだけですませる。
「……それはわかっているわ」
 しかし、彼女の方は違ったらしい。
「でも、今はこの艦にいるのだもの。せめて、安全な場所に着くまでは協力をしてくれないかしら」
 その声音に少しだけ怒りが感じられる。それはきっと、彼女が地球軍の軍人だからだろう。それでも、あの黒髪の副長よりましなのは、あくまでも選択権を自分たちに与えてくれているからだ。
「ラミアス大尉。その前に状況を説明してくれ、といっているんだよ、彼は」
 その位の時間はあるだろう? とムウが彼女に告げる。
「そうですね。確かに」
 自分の非を素直に認められる相手は嫌いではない。
 まして、コーディネイターを蔑視しない相手ならなおさらだ。
「それでも、時間が惜しいので簡単に説明させて貰うわね。現在、我が艦のシステムにウィルスが送り付けられたの。このままでは生命維持系統はともかく、航行関係のシステムがダウンしてしまうわ」
 残念だが、自分たちではそれを駆除できなかったのだ……とラミアスは続ける。
「ストライクのOSを見ても、お前さんが標準以上のレベルを保っているのはわかるからな。悪いが、手伝って欲しいと思うんだよ」
 ダメか? と彼は口にした。
「そう言うことでしたら、仕方がありませんね」
 カガリがいる以上、この艦を危険にさらすわけにはいかない。それでも、不本意だ……と言うポーズを崩さずにカナードは立ち上がる。
「兄さん」
「お前はラクス・クラインの所に行っていろ。俺がいない間に馬鹿なことを考える人間がいないとも限らないからな」
 こう付け加えたのはカガリに対する指示だけではない。ムウに現状を知らせるためだ。
「わかった」
 カガリは即座に頷いてみせる。
「では、行きましょうか」
 視線を向けるとムウは仕方がないというように苦笑を浮かべていた。

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最遊釈厄伝