星々の輝きを君に
38
ドアが開く。反射的に視線を向けて、イザークは微かに眉を寄せた。
キラがディアッカに懐いているのはいとこだからだ。それはわかっているが、こんな光景を見ていると何故かいらついてしまう。
「ニコル。説明を頼む」
それに気付いているのか。ディアッカはキラを背中からはがすとこういった。
「任せておいてください」
にっこりと微笑むニコルに邪気は感じない。おそらくキラがいるからだろう。そんなことを考えている間に、ディアッカは彼女をニコルへと預けてしまった。そのまま、こちらへと近づいてくる。
「どうかしたのか?」
キラは、とそんな彼に向かって、イザークは問いかけた。
「あぁ……ちょっとストレスがたまりすぎて甘え癖がでただけだろ」
元々甘えっ子なのに無条件で甘やかしてくれている相手から引き離されているから、と彼は言い返してくる。
「隊長がいらっしゃれば、もう少し、フォローが期待できたんだが」
その言葉の裏に隠されている意味をしているのは自分だろう。イザークにもそれはわかっていた。
「なら、俺たちでもいいだろうに」
甘えるぐらい、と続けたところで、イザークは始めて自分が何を口走ったのかに気付いてしまう。
「下手な相手にそれをやったら、そいつが生きながら地獄を見そうだしな」
何よりも、あれの反応が怖い……と声を潜めながらディアッカは言い返してくる。
「……ついでに、馬鹿な誤解をする連中が出てくるのも厄介だろう?」
さらに付け加えられた言葉に、イザークの眉間に、くっきりとしわが刻まれた。
「それ、消しとけよ」
キラに気付かれるまえに、と即座にディアッカが言ってくる。
「わかっている」
キラに不安を感じさせるのは本意ではないからな、とイザークはとりあえず渋面を解いた。
「しかし、キラの甘え癖はそこまで酷かったか?」
使節団としてプラントに来たときはもちろん、今までも気付かなかったが……と聞き返す。
「カナードさんがいたからな」
適切なフォローをしていたし、とディアッカは言い返してくる。
「それに、うちにあの人が来ていたらしいし」
自分は会ってないけど、と彼は続けた。
「なるほど。そのあたりのことは、後で聞いておくべきだろうな」
悔しいが、自分たちでは無理だろう。それでも、少しは彼女のために出来る事をしたい。心の中でそう呟く。
「それまでは、お前が責任を持つんだな」
ディアッカであればキラも何の遠慮もしないで甘えられるだろう。彼が抜けた穴は自分たちが埋めればいい。心の中で呟く。
「連れてきたのは俺だからな」
即座に彼はこう言い返してきた。
「……やっぱり、これ、ウィルスじゃないや」
このままだとウィルスだけど……とキラの声が耳に届く。
「ひょっとして、無差別に送ったのかな?」
あの人達ならあり得るかも、と彼女が呟いた。
「どなたなのですか?」
それにニコルが問いかけの言葉を口にする。
「多分、ギナ様の方かな? こういう事をされるのは」
サハクの、とキラはあっさりと言葉を返す。その名前を耳にした瞬間、ディアッカが頭を抱えた。
「ディアッカ?」
どうかしたのか? とイザークが問いかける。
「そういや、あの人達もキラを可愛がっていたんだった。その上カガリも行方不明で……実力行使にでたと言うことか?」
あの人ならやりそう、と彼は呟くように口にした。
「とりあえず、キラの無事を知らせれば大人しくなるんだろうが……勝手なことは出来ねぇしな」
ものすごくヤバイ、と彼は付け加える。
「ともかく、対処法はわかりましたから、隊長経由でザフトの艦艇に対処法を連絡して頂きましょう」
ニコルが口を挟んできた。
「それがいいだろうな」
イザークも頷く。
「ひょっとして、地球軍にもばらまかれているのか?」
同時に、こんな疑問がわき上がってくる。
「可能性は否定できないね」
ギナ様ならやる、とキラは言い切った。
「……って事は、別の意味で怖いな」
カナードがどんな行動を取るか。それが……と続ければ、キラもディアッカも苦笑を浮かべている。それが彼女たちの答えなのだろう。そう考えた瞬間、ため息が出てしまった。