星々の輝きを君に
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個人用のアドレスに届いたメールを見て、ラウは苦笑を浮かべる。
「おやおや。これも不幸中の幸いと言うべきなのかね」
それとも厄介ごとが増えたと言うべきか。どちらなのだろうか、と呟く。
「だが、これを利用して、あの新型艦も奪取すべきだろうね」
そうすればカナードとカガリだけではなくムウの身柄も保証されるのではないか。
「……さて、どうすれば最小限の被害で最大限の効果を上げられるかね」
とりあえずは、彼らに連絡を取ってからだろうか。
「また、あの子に苦労をかけてしまう、かな?」
だが、キラのことだ。難しい課題を目の前に置かれればおかれるだけ楽しむだろう。問題があるとすれば、それを知ったときの他のきょうだいたちの反応か。
「ともかく、すこしでも早く、あの子の傍に戻らないとね」
ディアッカ達を信用していないわけではない。だが、彼らが経験不足だというのは否定できない事実だ。
万が一を考えれば、すぐに対処が取れるようにしておかなければ自分が安心できない。
プラントですら、キラを狙っている者達がいる。
今はまだ、あのこの事は気付かれていない。しかし、いつ、どこでそれがばれるかわからないのだ。
特に、あの男に知られるわけにはいかない。
「タッド様がいらっしゃるから、それに関しては大丈夫だ、と思いたいが……」
それでも、彼の力にも限界がある。
「本当に、世の中、ままならないね」
いっそ、きょうだいたちだけでどこかに引きこもってしまおうか。だが、それではキラのためにならないということもわかっている。
「とりあえず、目の前のことから片づけないとね」
それはキラの安全の確保とラクス・クラインの奪取――と言っていいのかはわからない――だろうか。
「さて……出航の準備を急がせるか」
あれこれ不安に感じるのはやるべき事を終わらせたその後でもいい。
自分にそう言い聞かせると、彼は立ち上がった。
キラからの返事を確認して、カナードは小さな笑いを漏らす。
「懸命な判断だ」
確かに、彼が戻ってくるまで現状を維持しておいた方が無難だ。彼女のことであれば、自分とカガリで十分フォローが可能だろう。
「もっとも、あちらと合流されるまえに何とか追いついて貰いたいものだが……」
そのあたりはムウの手腕に期待するしかない。心の中でそう付け加えたときだ。
「うるさい! いい加減にしろ!!」
カガリの怒鳴り声が耳に届く。
「黙れ!」
それに被さるように女性の声が続いた。
「あれか」
厄介なのに掴まっているな、とカナードはため息をつく。そのまま立ち上がるとドアへと歩み寄る。そして、ロックを外した。
「どうした、カガリ」
廊下に顔を出せば、予想通りの顔がそこにはある。
「何でもない。頼まれたからあの子に食事を持っていって、少し話しをしてきただけだ」
出てきたら文句を言われただけ、と彼女は続ける。
「あれはコーディネイターだぞ!」
即座に女性――バジルールがこう言ってきた。
「だから?」
あきれたようにカガリが言い返す。
「……俺もコーディネイターだがな」
さらにカナードがこう呟いた。
「どうやら、あんたはコーディネイターがお嫌いのようだ。なら、俺もあんた達を嫌いになっても構わないって事だな」
さらに言葉を重ねれば、彼女は怒りを顕わにする。
「貴様!」
「俺たちはオーブの人間だ。それでも、まぁ、ここに世話になっているから、という理由で協力してきたが、どうやらあんた達には必要ないらしい」
こう言いながら、カナードは手でカガリに部屋の中に入るように促す。
カガリもこれ以上彼女の言葉を聞いていたくなかったのだろう。即座に部屋の中へと駆け込んだ。
「では、失礼」
カナードもこの一言を最後に部屋の中へと引っ込む。もちろん、即座にドアをロックして、ついでにインターフォンを殺したのは言うまでもない。
「とりあえず、兄さんが来るまではここで籠城だな」
ため息とともにカナードは口にする。
「ごめん、兄さん」
カガリが即座にこう言って謝ってきた。
「気にするな。地球軍の船である以上、予想できていた事態だ」
あいつらはバカの一つ覚えだからな、と続ける。
「まぁ、ここにいたのがお前でよかった、ということか」
キラであれば気に病んで体調を崩していただろう。
「……ちょっと引っかかるが……まぁ、私でよかったというのは同意だな」
あちらにはあいつもいるし、と彼女も頷く。
「あの子は大丈夫かな」
さらにこう付け加えた彼女は、基本的に優しい少女だよな……とカナードは頷いていた。