星々の輝きを君に
32
その報告が彼らの耳に届いたのは、会議も終わろうとしているときだった。
「……ラクス嬢が?」
誰もが耳を疑う。
「はい。先ほどから何度も呼びかけていますが、応答がありません」
正確には、彼女が乗り込んでいた船にだが、と続けられた。
「近くで、地球軍の目撃情報もあり……あるいは……」
続くべき言葉は飲み込まれた。だが、誰もが容易に想像できてしまう。
「ともかく、だ。早急に彼女の身柄を確認しないわけにはいかないだろう」
たとえ、死んでいたとしても……と告げたのはパトリックだ。その斜め後ろでアスランが嬉しそうな表情を作ったのをラウは見逃さなかった。
また、下らぬ事を考えているな、と心の中で呟く。
「最終確認地点はどこだ?」
ともかく、彼女を確認したいと思う気持ちは自分も変わらない。そう考えてラウは問いかける。
返された言葉は記憶の中にあるそれと近い。
「ガモフが近くにいるようです」
だから、と口を開く。
「捜索を命じますか?」
その間は、キラを戦闘から遠ざけておくことが出来るかもしれない。そんな打算がなかったとは言わない。だが、自分が傍にいられない以上、念には念を入れておきたいというのは兄としての本心だ。
「よかろう」
パトリックが重々しく頷く。
「では、失礼をして指示を出してきます」
言葉とともにラウはきびすを返す。そのまま、議場の外へとでていく。
「……さて……厄介なことにならなければいいが」
アスランから《ラクス・クライン》というストッパーが外れればどのような暴挙にでてくれるかわからない。
その前に、あれを徹底的に叩きつぶすのは自分の役目だろうか。それとも、と悩む。
「とりあえず、イザークには頑張って貰うべきだろうね」
当面は、と彼は呟く。その間に他のきょうだいたちと合流できればいいのだが。そんなことも考えていた。
目の前に救難信号を出している救命ポットがある。
「どうするべきかな」
普通であれば無条件で披露のだが、とカナードは呟く。
「あれがいるからな、あそこには」
目の前の救命ポッドが地球連合かオーブのものであれば無条件で拾っただろう。だが、プラントのものであった場合、あの女がどのような行動に出てくれるかわからない。
しかし、救助を待っているものを見捨てるのは宇宙では『卑怯者』といわれる行為だ。
「仕方がない。あの人に相談するか」
彼であれば最適な判断をしてくれるだろう。そう判断をして通信機のスイッチを入れる。
『どうした?』
即座に言葉が返ってきた。
「所属不明の救命ポットを発見しましたが……どうします?」
これだけで自分が何を気にしているのか彼にはわかるはずだ。
『あ〜……』
実際、困ったような声が返ってくる。
『見つけちまった以上、放っておくわけにもいかねぇしな』
だからといって、プラントのだとあいつがうるさいし……と彼は続けた。
『仕方がねぇ。俺が責任を取る。拾ってこい』
しばらく悩んだ後で、彼はこう言ってくる。
『誰であろうと、救難信号を出している相手を見捨てるわけにはいかねぇからな』
あちらは自分の権限で何とかしよう。カガリを側に置いておけばましではないか。そう彼は続けた。
「そうですね」
カガリならば、あれ相手でも大丈夫だろう。そして、基本的に弱いものの味方だ。
そうなるように教育をして貰ったのだが、間違いではなかったらしい。もっとも、もう少し女らしくてもよかったような気がするが……とは思わずにはいられなかったが。
「わかりました。では拾っていきます」
どのみち、バッテリーが切れる。だから、帰還するには問題がないはずだ。
『本当。こっちの方が気分的には楽だよな』
苦笑混じりの声が返ってくる。
「そうですね」
言葉を返しながら、ゆっくりとストライクを移動させていった。